2014年12月のことです。日本科学技術連盟の「第99回品質管理シンポジウム」に参加し、マツダ代表取締役会長の金井誠太氏の「『SKYACTIV』と『マツダの造り革新』」と題した講演を拝聴しました(近く、当サイトで詳しくご紹介する予定です)。その中で使用されたスライドの中に、「PDマネジメントとCAマネジメント どっちを選ぶ?」という問い掛けがありました。ここで言う「PD」と「CA」は、皆さんよくご存じの「PDCAサイクル」のそれ。PDに注力するマネジメントとCAに重きを置くマネジメント、さて、皆さんならどちらを選びますか?

 当の金井氏はどうでしょうか。同氏が会社の中でよく見かけるのは、CとAを重視するマネジメントだそうです。これは、部長や課長が部下に適当に指示を与え、納期が迫ってきた時に「おい、どこまでできたか見せてくれ」とチェックし(C)、それが期待よりも大幅に下回っていると、上司自らが先頭に立って残された短い納期の中で進ちょくを図る(A)というもの。上司本人は「この組織にはやっぱり俺がいないとダメだ」と自己満足するのですが、果たして…。

 これに対してPとDを大事にするマネジメントは、最初の段階で部下としっかりと話し合って作業計画を作り(P)、進ちょく具合をこまめに見ながら、日々きちんと実行していく(D)というもの。すると、上司本人が自己満足するような、ことさらイベントじみたチェックをしなくて済むようになります。金井氏はこう説明した上で、「会社において目立つのはCAタイプですが、本当に必要なのはPDタイプのマネジャー」としました。理由はこうです。不具合などにつながるような問題というのは、計画の初期段階ほど見つけにくいが、見つけさえすれば解決しやすい。ところが、計画が進めば進むほど初期段階とは逆に、発見は容易になるものの解決は困難になる。造ってしまった型を修正するとか、量産してしまった部品や製品を改良するとか、相当大変なことである、と。

 なるほど、金井氏のおっしゃる通りです。マネジャーの皆さん、そして将来マネジャーになる皆さんにはぜひ、PDタイプを心掛けていただきたいものです。が、その一方で、時には「Pを捨てろ」とまでは言いませんが「(Pを)ゴリゴリと深く追求しない」Dタイプになることをおススメしたいと思います。このことは、私が最近関わっている、リアル開発会議を通して日々実感していることに他なりません。

 リアル開発会議については、詳しくはこちらをご覧いただきたいのですが、ごくごく簡単に説明しますと、私たちの方で開発テーマを用意し、それに対して幅広い業界から様々な企業が参画してオープンイノベーション型の新事業開発を手掛けるというプロジェクトです。私たちはこれまで、主に冊子やWebなどのメディアや開発テーマごとに実施するリアルの説明会を通して参加メンバーを募ってきました。ところがです。いざ、参加したいと上司に告げると、「首を縦に振ってくれない。説得できるだけの材料をください」と、説明会などに参加した、開発の現場レベルの方たちからは悲鳴に近い声を本当に多くいただきました。

 開発の現場レベルの方が薦めるのに、なぜ、上司は首を縦に振らないのでしょうか――。それは、P、すなわち事業計画が見えないからです。このリアル開発会議に参加して、1年でどれだけの売上があるのか、どれだけの利益が見込めるのか、開発は担保できるのか…などなど、上司から矢のような質問が飛び、現場レベルの方たちは答えに窮すると共に、参加意欲もだんだんと萎えてしまうのです。リアル開発会議では、例えば「発電する服(電服)」というように骨格となるテーマはありますが、後は参加企業同士で知恵を出し合いながら開発を進めていきます。乱暴な言い方で恐縮ですが、リアル開発会議の始動時には立派な事業計画を立てられるほど何かが決まっているわけではありません。

 そもそも、Pをしっかりと立てられる開発は既存事業やその延長で、その時には上述のPDタイプのマネジメントが威力を発揮します。ところが新規事業開発というのは、誰も経験したことのない未踏領域の事業であるわけですから、Pを作ったところでそれは所詮机上のものといわざるを得ません。それなのにPにこだわってしまうと、途端に利益が見込めそうな確実なアイデア、言い換えれば既にどこかにありそうなアイデアしか事業化に結び付けられず、せっかくの尖がったアイデアは葬り去られてしまうことになります。そうならないために、とりわけ新規事業ではPを決して蔑ろにするわけではありませんがDタイプのマネジメントをおススメしたいのです。

 ある方が山伏修行に参加された時に、山伏がこんな話をしたそうです。「今の人は頭で考えすぎ。もっと、行動を起こしなさい。例えば、山伏は面白そうだからやってみようと思ったら、1回やってみたらいい」と。全く経験のないものについてあれこれ考えるよりも、即行動してみる――。そして、リアル開発会議アドバイザーの多喜義彦氏がよく口にするように、「よくないと分かれば、すぐ止めればいい」。リアル開発会議を年会費制ではなく、月単位で参加/脱退を決められる月会費制としているのは、実はこのためなのです。山伏は続けてこう言ったそうです。「PDCAはDから回せ」。修験者の言葉が、新規事業に関わる多くの方の心の目を開かせてくれたら何よりです。