「(航続距離が長く、燃料の補充も短時間で済むことから)行き先やルート、タイムスケジュールを自分で決められる」「(化石燃料に頼れなくなったとき、水素は)エネルギーの貯蔵・輸送を担える可能性がある」。これは、日経テクノロジーオンラインの記事「第1回 燃料電池車はEVよりも何が優位か?」の中で、トヨタ自動車の燃料電池車(FCV)「MIRAI」の開発責任者が挙げた燃料電池車(FCV)の電気自動車(EV)に対する優位点です。同記事は、日経テクノロジーオンラインのテーマサイト「クルマ」における2015年1月13日~2月12日のアクセスランキングで2位に入った記事です。
エネルギーの貯蔵・輸送に優れる水素
同記事でも紹介していますが、トヨタ自動車はFCVを「究極のエコカー」と断言しています。しかし、一方では米Tesla Motors社のように、EVこそが究極のエコカーだとするメーカーもあります。確かに、FCVは、水素の供給インフラの整備が不可欠です。それに、水素の製造方法によっては二酸化炭素の排出量を思ったほど減らせません。ただ、EVでも、航続距離が短い、充電に時間がかかるという欠点があります。次世代車両の覇権争いは、まさにFCVとEVといった2大候補の一騎打ちといった様相を呈してきているといえます。
冒頭で紹介した記事が人気を呼んだのは、そうした覇権争いの真っただ中にいるトヨタ自動車が、なぜFCVを強く推進するのか、多くの読者が理由を知りたかったためだと思います。かくいう筆者もその一人です。Tesla Motors社CEOのElon Musk氏は、2015年1月13日開催の自動車関連のカンファレンス「Automotive News World Congress」に出席し、その後の記者会見で「水素を使うFCVはばかげている」とけん制したとされます(今回のランキングで13位の「FCVのトヨタとEVのTesla、覇権を狙う両社がデトロイトで火花」参照)。見方によってはFCVの全面否定とも取れるこの発言もあって、FCVに精力を傾けるトヨタ自動車の真意をなおさら知りたいと思った読者は多かったのではないでしょうか。
ちなみに、個人的には同記事で興味深かったのは、エネルギーの貯蔵・輸送性という観点からトヨタがFCVの可能性を捉えていることです。同記事の中でMIRAIの開発責任者は、「電気は貯蔵したり輸送したりするのが苦手です。送電線を整備すれば配電(輸送)できますが、大掛かりな設備投資が必要となります。例えば、土地に余裕がある日照条件の良い場所(砂漠など)に太陽電池を集中的に設置しても、発電した電力を有効活用することは簡単ではありません」と語っています。
FCVの普及に水素インフラの整備が欠かせないことは既に述べた通りですが、それによって水素インフラの整備が進めば、エネルギーの貯蔵・輸送に優位とされる水素社会の実現に向けた基礎とできます。そうした点もFCVの利点であることを筆者は同記事によって改めて認識させられました。