「展望、2015年の半導体業界」と題した今回のSCR大喜利。回答者それぞれが注目する2015年に起き得る動きを披露していただいた。今回の回答者は、微細加工研究所の湯之上 隆氏である。

湯之上 隆(ゆのがみ たかし)
微細加工研究所 所長
湯之上隆(ゆのがみ たかし) 日立製作所やエルピーダメモリなどで半導体技術者を16年経験した後、同志社大学で半導体産業の社会科学研究に取り組む。現在は微細加工研究所の所長としてコンサルタント、講演、雑誌・新聞への寄稿を続ける。著書に『日本半導体敗戦』(光文社)、『電機・半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北-零戦・半導体・テレビ-』(文書新書)。趣味はSCUBA Diving(インストラクター)とヨガ。

【質問1】2015年の半導体業界で、注目している動き・出来事は何でしょうか?
【回答】 MediaTek社とXiaomi社の提携

【質問2】2015年の半導体市場に、大きな影響を及ぼすと考える機器やサービスは何でしょうか?
【回答】 IoTによる未来予測

【質問3】2015年、ブレークまたは急展開する可能性が高いと注目している半導体技術は何でしょうか?
【回答】 FinFET(すでにブレーク)

【質問1の回答】MediaTek社とXiaomi社の提携

 MediaTek社は、2013年に、低価格スマートフォン用のアプリケーションプロセッサー(AP)をQualcomm社の半額で供給し、急成長した。AP販売の際には、スマホの設計図であるリファレンスと推奨部品リストも添付したため、世界最大のスマホ市場となった中国では、「明日から靴屋でもスマホがつくれる」と言われるまでになった。その結果、2014年には、MediaTek社からAPを調達した中国のスマホメーカーが躍進を遂げ、この影響でSamsung Electronics社のスマホシェアは激減した(図1)。

図1 中国市場におけるスマホの企業別シェア

 中国スマホメーカーの中でも、特にXiaomi社の成長は凄まじかった。Xiaomi社の成長にMediaTek社も一役買ったが、端末はほぼ原価で売る代わりに、利益はアクセサリやオンラインストアで稼ぐというユニークなビジネスモデルも功を奏した。そして、2014年第2四半期には、中国市場で、凋落するSamsung社を抜いて、Xiaomi社がシェア1位に躍り出た(図2)。世界でも、Samsung社、Apple社に次ぐ3位になった模様である。

図2 中国市場における企業別スマホシェア

 Xiaomi社は2015年に1億台のスマホを出荷する計画であるが、驚くことに、中国ファブレスのリードコアと組んで、APの内製化を始めると発表した(「半導体産業新聞」2014年11月19日)。スマホの付加価値の源泉はAPにあると考えたのは、スマホの生みの親、Apple社のSteve Jobs氏である。そのためにJobs氏は、通信、軍事、航空宇宙用の“とんがった”プロセッサーを開発していたファブレスP.A.Semi社を買収した。Xiaomi社のAP内製化は、Jobs氏の思想に相通じるところがある。

 筆者は、APの内製化により、Xiaomi社はMediaTek社と袂を分かつことになるのかも知れないと思っていた。ところが、1月にラスベガスで開催されたCESで、MediaTek社が、IoT分野でXiaomi社と提携すると発表した(日本経済新聞2015年1月10日)。これには再び驚いた。既にXiaomi社は、スマホ以外にも、携帯用バッテリー、Wi-Fiルーター、テレビ、タブレット端末、スマートリストバンド、空気清浄器などを開発している。その上にXiaomi社は、エアコン、冷蔵庫、キッチン機器など多彩な家電製品を製造しているMidea社に2億米ドル以上を出資した。これは、Xiaomi社のスマートホーム戦略の一環とみられる。MediaTek社は、これらXiaomi社の製品にLSIを供給し、IoTビジネスに打って出ると見られる。

 昨年以降、IoTがブームであるが、APで急成長したMediaTek社と、スマホで躍進したXiaomi社シャオミのタッグに、注目している。