縫製工場のスタッフを選ぶ際には、各国に探しに行きます。採用の倍率は非常に高く、。それくらいの規模の応募者から選んだ人材は、どの国でも教育レベルや志がほとんど同じです。ただ、人間性やコミュニケーション能力は異なります。例えば、「中国はぜんぜんダメだよね」という評判は耳にするものの、中国の人でもやり方次第では大丈夫になるわけです。

 出身国の国民性によってマネジメントの方法論が異なります。しかも、「この国の人はこの国の人と一緒に働かせると、こういうことが起こるよね」ということが、これまでの経験の中で分かっています。

 大企業の場合は大量採用していますから、ある程度ごまかせるわけです。我々のような中小・中堅企業の場合、従業員に占める外国人の割合が高くなると、マネジメントをきちんと考えないと、ストライキのような大変なことが起こりえます。

メンツが大事

大橋 そうですね。僕のところも中国がメインですが、従業員の扱い方には気をつけています。例えば、注意をする際にも個室に呼び、個人的に注意しないといけません。メンツを大切にする人が多いので、みんなの前で注意するというのはご法度ですね。

 メンツを気にして次の日辞めてしまったという例も実際にあります。特に、中国の場合は終身雇用という考え方がないので、いつ辞めてもいいし、条件のいいところがあればそっちに行きたいと思うことが当たり前です。日本とは大きく違いますね。

(写真:加藤 康)

菅沼 そうそう。特に、中国は旧正月の後が大変ですね。20日間ほど休みになるので、ほとんどの従業員は鈍行列車で数日間かけて自分の故郷まで帰ります。また戻ってくるのに数日かかるので、「もう会社に行きたくない」と思う人もいるわけです。

 旧正月後には、従業員の一定数が帰ってこず、生産計画が滞るといったことも起こりえます。こうしたことは一度経験しないと、なかなか予測できない問題ですね。

大橋 それから中国に限って言えば、やはりベトナムのような親日国ではないので、反日感情を持った人もいます。最近も尖閣諸島の問題で、かなり気を使いました。普通のビジネスなのに、政治の問題が大きく影響してきますよ。

リアル 最近、中国は人件費が高騰しているので、工場をほかの国に移した方がいいという話も出ていますよね。

大橋 中国の人件費は実際に上がっていて、「工場を移さないのか」とお客さんからもよく言われます。でも、中国は自国で材料を製造しているということが強みになっていますね。雑貨全般を扱っているので、樹脂や金属材料を手に入れる必要があります。

 まだベトナムやタイなどにはそういう素材がなく、中国から輸入しないといけないのです。そうなると、時間がかかり、納期に間に合わなくなってしまいます。

 日本企業からは、短納期を求められることが多い。もちろん価格は大切ですが、それよりも時間がもっと大事で、「もう高くてもいいから、すぐ欲しい」という要望が多いのが実情です。だから、僕はまだ5年くらいは中国でやる意味があるのかなと思っています。

 月に何百個分ものコンテナを動かすような大手企業では人件費の負担が大きく、拠点を移した方がいいケースもあるでしょう。でも、うちの会社くらいの規模であれば、まだまだ中国で十分です。