「“拠り所”なき時代のエレクトロニクス業界を占う」をテーマとした今回のSCR大喜利。エレクトロニクス業界が技術や事業を考える上での暗黙の予定調和を図る“拠り所”としてのMooreの法則の意味について考えることを目的としている。今回の回答者は、IHSテクノロジーの南川明氏である。

南川 明(みなみかわ あきら)
IHSテクノロジー 日本調査部ディレクター
南川 明(みなみかわ あきら)
 1982年からモトローラ/HongKong Motorola Marketing specialistに勤務後、1990年ガートナー ジャパン データクエストに移籍、半導体産業分析部のシニアアナリストとして活躍。その後、IDC Japan、WestLB証券会社、クレディーリヨネ証券会社にて、一貫して半導体産業や電子産業の分析に従事してきた。2004年には独立調査会社のデータガレージを設立、2006年に米iSuppli社と合併、2010年のIHSグローバル社との合併に伴って現職。JEITAでは10年以上に渡り,世界の電子機器と半導体中長期展望委員会の中心アナリストとして従事する。定期的に台湾主催の半導体シンポジウムで講演を行うなど、アジアでの調査・コンサルティングを強化してきた。

【質問1】技術開発の前提を決める拠り所としてのMooreの法則が機能しなくなった場合、最も大きなビジネスの変更を迫られる業種は何だと考えますか?
【回答】半導体メーカーと製造装置メーカー

【質問2】Mooreの法則が機能しなくなった場合、エレクトロニクス業界における技術進化/業界勢力図/サプライチェーン/市場規模などのうち、最も大きな影響を受けるのはどのようなファクターだと考えますか?
【回答】業界勢力図には大きな影響が出る

【質問3】エレクトロニクス業界でMooreの法則に代わる新たな予定調和の“拠り所”が生まれるとすると、どのような「指標」や「進化軸」に基づくものになると考えますか?
【回答】快適なライフスタイル、ビジネス環境。あえて、指標をあげれば、超低消費電力化

【質問1の回答】半導体メーカーと製造装置メーカー

 Mooreの法則が続くのは7nm程度までと言われている。さて、半導体で微細化が必要とされている分野は全体のどれくらいあるのだろうか。半導体全体市場の中でメモリーが20%、マイクロプロセッサーが13%、FPGAや先端ロジックが18%の合計51%になる。

 これ以外でそれほど微細化を必要としていない製品にアナログ、パワー半導体などのディスクリート、オプトデバイス、センサーなどがある。これらの製品は微細化よりは性能向上やコスト低減を微細化ではない技術開発によって実現しなければならない。例えば、アナログであれば、いかに再現性を高くするかとか、ノイズを無くすとか、コンタクトイメージセンサー(CIS)であれば如何に光を多く取り込む工夫をするとか、センサーであれば如何に正確にセンシングするかを微細化ではない技術開発で実現することが技術者の腕の見せ所なのだ。

 つまり微細化が止まれば困るのはメモリー、マイクロプロセッサー、先端ロジック屋さんになるわけで、半導体市場の半分を占めるメーカーになる。しかし、会社数からすればメモリーで7社程度、マイクロプロセッサーで2社、先端ロジックではファウンドリーの5社程度になり、その他200数十社はすぐに困るわけでは無いと言える。もちろんマイクロプロセッサーやメモリーが無ければシステム構築に問題が発生し、間接的にこれら微細化を必要としないメーカーにも影響があるが、その度合いは全く違うものになる。