米Intel社の創業者の一人であるGordon Moore氏が、半導体の集積度は2年で2倍(その後1.5年で2倍)のペースで高まるとする「Mooreの法則」を提唱したのが1965年。2015年はその50周年に当たる。この間、半導体はMooreの法則に沿う高集積化・低コスト化によって目覚しい発展を遂げ、それを利用する電子機器や人間社会の姿を大きく変えてきた。そしてMooreの法則は、装置、材料、デバイス、機器メーカー、サービスプロバイダーといった産業界の関係者が暗黙のうちに予定調和を図るための「絶対的な拠り所」として機能してきた。
一方でここに来て、経済的・工学的・物理的限界など、さまざまな要因からMooreの法則の限界が叫ばれている。この先、エレクトロニクスはどのような方向へ進化し、その時、Mooreの法則に代わる新たな進化軸は果たして生まれるのか。
今回のSCR大喜利では、「“拠り所”なき時代のエレクトロニクス業界を占う」をテーマとした。エレクトロニクス業界が技術や事業を考える上での暗黙の予定調和を図る“拠り所”としてのMooreの法則の意味について考えることを目的とした。今回の回答者は、野村證券の和田木哲哉氏である。
野村證券 グローバル・リサーチ本部 エクイティ・リサーチ部 エレクトロニクス・チーム マネージング・ディレクター
【質問1の回答】半導体製造装置。手をこまねいていると衰退への道を突き進むことに
Mooreの法則の終焉、そしてMooreの法則亡き後の半導体業界がどうなるのか。これは、私たちリサーチャーにとっても、大きなテーマであった。
半導体業界の技術進化が鈍化する中で、希望が出てきたのがIoTによる巨大な事業機会である。これによって、企業ごとの優勝劣敗はあろうが、1つを除く、すべての業界がその恩恵に浴し、中期的に大きな成長を遂げうる可能性を手に入れることとなる。
システムプロバイダはIoTを活用したソリューションを提供することで、顧客にコストセーブやトップラインの拡大といった恩恵をもたらし、巨大なビジネスを手に入れる可能性がある。それを実現するためのアプリケーションにも色々な事業機会がある。ウェアラブル端末しかり、コグニティブコンピューティングしかり、ビッグデータしかり、非ノイマン型コンピュータしかり、自動車などの自動制御機器しかりである。そのアプリケーションを作り出すための半導体と材料には多少のイノベーションが求められようが、それ以上に、センサー1兆個時代、というキーワードが象徴するように、大量の数が必要とされることとなる。ほぼ全てのハイテク業界が様々な成長の機会で満ちている。
唯一、成長への解が見えないのが半導体製造装置である。組み立て用装置は別であろうが、前工程装置については、先行きは楽観を許さない。設備更新需要がないところに持続的な装置需要はない。そして、設備更新需要を喚起するのが技術革新であり、半導体製造装置の技術革新はMooreの法則に則った微細化によってもたらされてきた。
半導体製造装置の親戚ともいえる、LED、太陽電池、液晶において、技術革新がないところでの製造装置市場がどういう運命を辿ったかを思い出すと簡単である。巨大な装置市場がたちまちのうちに蒸発してしまったのを見ると、Mooreの法則亡き後の半導体製造装置市場についても、厳しい見通しを持っておくべきであるといえる。企業には、まだ、時間があるうちに、ビジネスモデルの転換や、収益構造の強化といった備えをしておくことが求められよう。