もし3Dプリンターによって比較的簡単に少量、多品種の製造が可能になると、ハードの製造も最初から自社で手掛けるといった、揺り戻しが起こるかもしれません。いずれにせよ、ハードだけでは大きな収益を上げることが難しい時代でも、ハードの知識、理解は重要なのです。

 ハードを理解するためには、基礎となる物理や数学、回路などを学ばなければいけません。基礎ができていないと応用に進めない分野です。習得が難しく時間もかかる。参入障壁も高い分、身に付けると個人としても他の人に差異化できるスキルでもあります。

 前回のコラム「MOT(技術経営)を学ぶには技術と経営のどちらが先か?」(関連記事)では、学ぶには順番がある、経営の前に技術を学ぶ重要性を強調しました。技術の中でも学ぶ順番はあると思うのです。一言で言うと、基礎から応用へ。例えば、数学→物理→回路設計→機器設計→プログラミングといった順番です。

 私自身が物理から半導体デバイス、回路、ソフトへと専門が移ったからこのように思うのかもしれません。ただ、若い時、頭が柔軟な時でないと難解な理論、基礎理論を学ぶことが難しい、というのは年を重ねるとともに実感します。一般的にも、最適な学ぶ順番というものもあるのではないでしょうか。

 日本の製造業、「ものづくり偏重」「性能が良いハードを作れば売れる」などへの反省からか、最近は比較的若い時、小中学校などでプログラミングを習って、アプリケーションを開発する、という教育が行われるようになってきました。確かに、ビジネスの感覚を若い年齢から身に付けることは良いことだと思います。

 しかし、自分がプログラミングして動かすハードの中身はブラックボックスになり、
原理原則を理解しないまま応用に入ってしまうとしたら、長い人生を考えたら近道どころか、危険なことではないでしょうか。

 最近、日本に限らず電子工学科の大学教員が嘆いているのをよく耳にします。ハードは原理を学んでから動かすまでに何年も勉強しなければいけないのに対して、ソフトは比較的短時間にアプリケーションを動かせる。学生はすぐに結果が出るソフトばかりやりたがる、というのは世界共通のトレンドのようです。再びドワンゴの川上さんの記事を引用します。

 「オリジナルのサーバーを作るのは僕のテーマで、ずっと昔から言っていたんですが、今その方向性がある程度形になってきたと。うちのエンジニアも最初は引いていて嫌がってたんですけど、最近理解を示すエンジニアが現れたので、ハードもやろう、データセンターも作ろうと。」

 このようにハード、ソフトを理解するのはとても難しい。難しいからこそやりがいがあることだと思います。ハードはソフトのようにすぐに「目に見える成果」が出るわけではありませんが、学生のみなさんには是非、頑張って学んでもらいたいと思います。