冷静に考えてみると、ソフトだけでサービスを差異化するのは難しい。ソフトは比較的少ない投資で簡単にできるからこそ、逆に、簡単に追いつかれてしまう。研究の世界でも、ソフトの研究者から、「ソフトは壊れないから、一度良いものができたらそれで終わり。常に新しい課題が出てくるハードの研究が羨ましい。」と言われることもあります。

 ソフトだけでは厳しいというのはビジネスの世界でも同じでしょう。最初はクラウドサービスを使って事業をスタートさせたIT企業が、差異化のために自社でハードの構築も手掛けるようになってきています。

 昨年の12月19日に日経テクノロジーで掲載された記事「サーバーもデータセンターも自作、ハード開発に乗り出すドワンゴ」(関連記事)の中でドワンゴの川上会長は自社でITプラットフォームの開発も手掛ける理由について以下のように話をしています。

「IT企業は、最新のプラットフォームという同じ土俵で勝負しようとしますよね。例えば、最近のWebサービスはAWS(Amazon Web Services)で作る人が多い。しかし、それでは同じ条件で勝負することになるので、いち早くやれるかどうかの競争になって、「いち早く」が終わった後はレッドオーシャンになってしまう。僕は競争する環境自体を変えることがすごく重要だと思っています。AWSでできないサービスって何だろうと考えると、OSも独自なやつを作ろうとか、ハードも専用のアプライアンスを作るかとか、それでチップも作るかという話になりますよね。全然、自然な話だと思うんですけど。」

 ここで大事なのは、ITサービスを差異化するためのハード、ソフトの技術開発であって、「ハードが尊い。ハードは何が何でも手掛けるべきだ」というハード至上主義ではないこと。Google、Amazon、Facebookなどの米国のIT企業が、サービスを実現するためのインフラであるサーバー、ストレージ、ひいてはデータセンターまで自社で開発していることはよく知られています。ようやく同じような動きが日本にもあることに期待しています。

 結局のところ、長期にわたって差異化するには、ハード・ソフト・サービスの融合が必要なのでしょう。ただ、全てを最初から手掛けることは投資、人員などのリソース面や開発期間の面で難しく、リスクも大きすぎる。まずハードはアウトソースして、投資が少なくて済むソフト・サービスから手掛ける。事業が拡大し企業の体力もついてきたらハードも手掛け始める、ということではないでしょうか。