「日本の電子産業の活力は何で測ればよいのか」と題したSCR大喜利。現在の日本の電子産業の活力は本当のところどうなのか、読み解くためのアイデアを聞いている。今回の回答者は、微細加工研究所の湯之上隆氏である。

湯之上 隆(ゆのがみ たかし)
微細加工研究所 所長
湯之上隆(ゆのがみ たかし) 日立製作所やエルピーダメモリなどで半導体技術者を16年経験した後、同志社大学で半導体産業の社会科学研究に取り組む。現在は微細加工研究所の所長としてコンサルタント、講演、雑誌・新聞への寄稿を続ける。著書に『日本半導体敗戦』(光文社)、『電機・半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北-零戦・半導体・テレビ-』(文書新書)。趣味はSCUBA Diving(インストラクター)とヨガ。

【質問1】現在の日本の電子産業の“活力”を海外の国や地域と比較する場合、“活力”をどのように定義しますか?
【回答】研究開発力と収益力が高い場合、“活力”が高い

【質問2】日本の現在の“活力”を測るための指標として、どのような統計値、予測値に着目しますか?
【回答】論文数、(国際)特許出願数、営業利益率、設備投資額

【質問3】現在の日本の電子産業の“活力”は、過去の日本や海外の国や地域に比べてどのような状況にあるのでしょうか?
【回答】半導体産業の活力は低下していると言わざるを得ないが…

【質問1の回答】研究開発力と収益力が高い場合、“活力”が高い

 研究開発が活発に行われ、次々と新技術や新製品が生み出され、それが売り上げにつながり、高い収益を上げ、その収益から次への研究開発投資がなされる。こうした正のスパイラルを生んでいる状態が、活力の高い状態であると考える。

 ここで、研究開発力と収益力の2つの条件が同時に満たされることが重要である。研究開発は盛んだが、収益が低いというのでは駄目だ。

 例えば、日本は、半導体の地域別シェアの低下が顕著になった1990年代半ば以降に、呆れるほど多くのコンソーシアムや国家プロジェクトを立ち上げた(図1)。まさに国を挙げて半導体の研究開発に邁進したわけである。ところが、シェアの低下を食い止めることはできなかった。

図1 乱立するコンソーシアム、国家プロジェクト
図1 乱立するコンソーシアム、国家プロジェクト

 この理由は次のように考えられる。研究開発によって生み出されるものは技術であるが、それは一種の知識であり、情報である。しかし、技術が開発され知識と情報が創出された段階では、何も付加価値を生んでいない。その技術を売り上げに結びつけ、収益に変換する装置(仕組み)が必要である。しかし、日本にはその装置(仕組み)が欠落していた。だから、いくら多数のコンソーシアムや国家プロジェクトを立ち上げて技術開発を行っても、それが企業の売上に結びつかず、その結果、収益も低かった。

 ただし、ここで本質的に重要なのは、収益であって売り上げの規模やシェアではない。例え売り上げやシェアが大きくても、収益が低ければ、企業が存続し続けることができないからだ。例えば、図2は2013年の企業別の半導体売上高と営業利益率をプロットしたものである。ここから、売上高と営業利益率には相関関係が無いことが分かる。アナログやFPGAメーカーの中には、売上規模が小さくても、極めて高い営業利益率を上げている企業がある。

図2 2013年の半導体売上高と営業利益率の関係
図2 2013年の半導体売上高と営業利益率の関係