その国の電子産業の活力を測る指標のひとつとして、半導体製品の消費量の統計値がある。電子システムの中核部品である半導体が多く使われていれば、きっとその国の電子産業は活力に満ちているに違いないという考えに基づくものだ。新聞や雑誌の記事、またさまざまな文献の中には、米SIAが発表する半導体売上高の統計値やWSTSの半導体市場予測に基づいて、日本の電子産業や半導体産業の今を論じたものがある。中には、日本での半導体の売上高が長期的に減少し続け、アジア地域での売上高が急増していることを論拠に、日本の電子産業や半導体産業は衰退していると論じるものもある。
近年、SIAの統計値やWSTSの予測値は、その地域の活力を測る指標としては使いにくくなっている。これらの値は、単にその地域に出荷された半導体製品の総額に過ぎないからだ。日本企業が日本で開発した製品でも、海外で半導体を集めて生産すれば、海外の半導体製品の売上高の増加になる。工場の海外移転やEMSへの生産委託が進む現状では、とても活力を反映した値になっているとは思えない。
米国のある大手半導体ベンダーの経営者は、「日本市場でのミッションを考えるために、自社製品が日本でどのくらいデザインインされているかをウオッチしています。その観点では、日本市場で積極的にマーケティング活動を進めることは、急伸し世界一の半導体市場になったと言われる中国市場と比べても段違いに重要です」と言った。統計値や予測値の位置付けが時代とともに変わり、データを扱う側のリテラシーが問われるようになっているのだ。
今回のSCR大喜利では、「日本の電子産業の活力は何で測ればよいのか」と題し、現在の日本の電子産業の活力は本当のところどうなのか、読み解くためのアイデアを発掘することを目的とした。まず最初の回答者は、アーサー・D・リトルの三ツ谷翔太氏である。
アーサー・D・リトル(ジャパン) マネジャー
【質問1の回答】産業としての付加価値を生み出し、獲得できていること
経済活動とはヒト・モノを含めた経営資源に投資することで付加価値を生み出す活動だ。ここで言う付加価値とは簡単に言えば、企業の売上のうち、(他社が生産した部分を除いた)自社経営資源が生み出した部分のことである。
しかしながら、日本製造業の付加価値の低下が叫ばれて久しい。ビジネスのグローバル化が進み、そのバリューチェーンが国内外に分散する中で、各社、さらには産業として、どの地域で価値を生産し、どの地域で価値を獲得するかといった経営判断に迫られている。いわば、グローバルバリューチェーンの中で高付加価値を獲得していくための戦略が問われている。
設問のように海外地域と単純比較することは難しい。ただし、産業としての活力を議論する際には、上記のように日本エレクトロニクス産業がどこで付加価値を生産し、どこで付加価値を獲得できているか、それがどのように変化しているのかを認識することが重要であろう。