愛知県大府市に松尾製作所という、知る人ぞ知る自動車部品メーカーがある。自動車のステアリングに内蔵するホーンスイッチでは国内最大手だ。
 同社の技術開発を統括している人物が、創業者から3代目となる取締役副社長の松尾基氏である。松尾氏は、これまで自動車部品一筋だった同社を、異分野で多くの新しい事業が芽生える企業に生まれ変わらせようと社内風土の改革に取り組んでいる。(リアル開発会議)
松尾 基氏。松尾製作所 取締役副社長(写真:早川俊昭)

 下りのエスカレーターを逆向きに登っていく。ある程度のスピードで足を運び続ければ、何とかその場で止まっていられる。だが、歩くのをやめたら、あっという間に下の階に戻されてしまう。上の階に到達したいのであれば、さらに早足で駆け上るしかない。

 私は、新事業の開発をこんな感覚で捉えている。松尾製作所は、主に自動車部品の開発で会社を大きくしてきた。しかし、自動車業界は、リーマンショックによる不況で大きな壁にぶつかった。昔のようにビジネスを進めるだけでは、その場に止まっていることすらままならない。さらなる高みを目指すためには、自動車以外の異分野にも積極的に挑戦していく必要がある。

 本業の自動車部品は今、し烈な価格競争の中でASEANのような新興国でいかに安く製造できるかの勝負をしている。しかし、日本の企業として、国内でものづくりを続けていくには、世の中にないものを作り出さなければならない。では、松尾製作所の強みは何か。自動車業界の中で鍛錬し続けてきた技術力しかない。この財産を生かして、何か新しいことはできないかと探し続けてきた。