「僕は本当に変わりました」、「仕事と切り離して考えてもこの研修を受けて本当によかった」――。2014年秋~年末にかけて取材したとある研修で、最終日に受講者たちが口々に感激した様子でこう語っていました。その研修とは、「出る杭研修」(関連記事)。ソニー在職中に同社初のサプライチェーン構築などを手掛け、後に『ソニーをダメにした「普通」という病』(ゴマブックス)を執筆した横田宏信氏が講師を務める研修です。

 お気づきでしょうが、「出る杭」は横田氏の古巣であるソニーが、かつて求人広告に掲載したキャッチコピー「出るクイを求む!」からきています。出る杭とは単なる問題児や変人ではありません。同研修で育てようとしているのは、常識や既存の事業にとらわれることなく新事業や革新的な商品を生み出せるクリエイティブな発想のできる人のこと。物事を深く・広く・正しく考え、かつその考えをきちんと主張できる人とも言えます。

 自らを「出る杭」と自認する横田氏は、日本企業、特に大手企業におとなしい人材が増える中では、待っていても「出る杭」はなかなか現れないといいます。そこで、研修を通じて「出る杭」としての考え方を養い、次代のリーダーを育てようというのが同氏の狙いです。もう少し論理的に言うと、横田氏は「出る杭」を、個別最適より全体最適を重んじる人間である「T字型人間」と定義しており、研修を通じてT字型人間となるべく思考法などを養います。

 延べ11日間におよぶ同研修では、「本質とは何か」といった極めて抽象的な議題から、「顧客に提供すべき価値とは」といったものまで、横田氏が提示する議題について数十回のグループ討議とプレゼンテーションを重ねます。それは受講者がこぞって「今までこんなに深く考えたことはない」「毎回くたくたになるくらい考えた」というほど。研修の終盤には、仮想の事業を想定してそのビジネスモデルによって誰にどういう価値をもたらすのか、競合に勝つためにビジネスモデルをどうすべきか、といったより実践的な討議も行います。

 今回取材した一連の研修には、大手メーカーなど3社から十数人の技術者らが送り込まれていました。皆それぞれの職場で次代のリーダーを期待されている人材です。業種も職種も異なる彼らが毎回3つの混成グループをつくり、熱い討議を繰り広げるのです。筆者は取材ということであくまで傍観者でしたが、研修開始当初はぎごちなかった議論やプレゼンテーションが、回数を重ねるにつれて白熱し、かつ一体感のあるものへと劇的に変化していくのが如実に分かりました。特に、初日には「これが後10回も続くのか」と浮かない顔をしていた参加者たちが、回を重ねるにつれてどんどん前のめりになり、最終日には目を輝かせて「確かに成長した。参加して本当に良かった」と言っていたのが印象的でした。

 『日経ものづくり』では、2015年2月号から、この「出る杭研修」の考え方をベースにした連載「『出る杭』を育てる時代」を開始します。T字型人間とは何か、深く・広く・正しく考えるとはどういうことか、出る杭に求められる思考法とは――。横田氏の人材育成論にご期待ください。