日本人は器用だと、よく言われる。箸で器用に小豆をつまんだりすると、外国人は驚嘆するのである。何でそんなことができるのか、同じ人間なのにどうしてかと、ビックリするのである。

 私は、なぜ日本人が器用なのか、仮説を立てている。いや、仮説というより確信している訳があるのだ。

 私は、小学生の頃から剣道をしていた。そしてあるとき、師範から剣道の技(わざ)は剣(つるぎ)を両手で持つことで発達したものだと教えられた。

 加えて、武器としての剣は世界中にあるが、両手で操る剣は日本刀だけで、他の、例えばヨーロッパの剣(フェンシングの剣はフルーレ、エペ、サーブルの三種ある)も、大陸で使われた青竜刀やアラブの剣も、その殆どが片手で突いたり、振り回したりするものだとも教えられた。

 なるほど、先端が鋭くなっているフルーレやエペは、急所に突き刺してダメージを与える剣であり、青竜刀などはその質量による惰性力(inertia・慣性)で相手を殺傷するようにできている(ちなみに薙刀などは馬や牛を打ち払う武器で、剣とは言わない)。

 だから、外国の剣は、操るというより、突く、振り回す、叩く、というように使うものが多く、そこに技としての技量が発達する余地は少なかったのであると、師範は教えてくれたのだ。