「IoTってモノがしゃべりだすことだと思うんです」。日経エレクトロニクス1月5日号の特集のタイトル決めが難航する中、河合記者が発したこの一言で腑に落ちました(記事)。

 記事のタイトルがなかなか決まらなかったのは、今回の特集で取り上げた「ビーコン」と「IoT」を組み合わせた元の案に、筆者が難色を示したからです。ビーコンとIoTの関係がよくわからなかった上、そもそもIoT、すなわち「モノのインターネット」は、筆者にとって謎の単語でした。モノがネットにつながって何ができるのか、なかなかイメージが湧かないのです。

 「モノがしゃべる」と言われて、ようやく想像が膨らみました。温度計が現在の気温をしゃべると、それを聞いたエアコンが動き出す。部屋の汚れを嘆くカメラの言葉を受けてロボットが掃除を始める。前回のこのコラムで機械が自由に情報発信する将来のことを書きましたが、それを指す言葉がこれほど身近にあるとは、うかつでした。中でもビーコンは、自分の名前(ID)しかしゃべれない幼子のようなモノです。それでも幅広い用途があり、安価かつ簡単に利用できることが受けて、そこかしこで導入が進んでいます。この様を捉えて「お手軽IoT」と呼んでみました。

 モノは、ただしゃべるだけではありません。これからのモノは自ら学習し、自分をプログラムするようになると日立製作所は見ています(記事)。モノの知覚や身体能力も人の常識を超えて高まっていくでしょう。そうなったら、人類の居場所はなくなってしまうのでしょうか。

 逆説的ですが、実はその時こそ本当に人間が主役になるのだと考えています。これまでの電子機器の開発は、ややもするとユーザーの意向を置き去りにして、機器の機能や性能の強化に主眼が置かれがちでした。スマートフォンの多機能を使いこなせない人々が確実にいるのはその象徴です。いつまでもこの方針で突き進んでいくと、本当に人類はモノに負けるかもしれません。それを避ける道は人を中心に据えたシステムやサービスの開発であるはずです。

 本誌が創刊700号を迎えた時、今も表紙を飾る大きなアルファベットをロゴマークとして掲げました。ネットにつながるさまざまな機器が電子産業の牽引役になる時代に向けて、誌面を刷新したためでした。今やこうしたモノはあまねく世に広がり、電子産業はまた新たな局面に入りつつあります。隔週刊だった日経エレクトロニクスが次号から月刊誌になるのも、この変化の一環です。時代の節目を迎えて、旧来の本誌に再び別れを告げたいと思います。さようなら、NE。