結城 僕は、もともと「個人情報保護」関連のコンサルタントをやっていました。個人情報保護法ができた前後は、「Pマーク(プライバシーマーク)」の取得を目指す大手企業に対するコンサルタント業で儲けた人たちがたくさんいたんです。でも、僕たちの会社は後発だったので、既にそのブームは下火になっていました。
そうこうしている間にリーマンショックが起きて、世の中の中小企業は個人情報保護の体制を構築するためのコンサルティング料金などを払っている余裕がなくなりました。そんなタイミングで国としては、業績が傾いている企業が従業員に必要な研修を行った場合の助成金制度を構築したんです。そこで個人情報保護の社員教育にビジネスをシフトしました。でも、初年度は導入しても、次年度にも継続する企業は少なかったんです。なぜなら、個人情報保護の教育プログラムは、講義を聞いている人にとってつまらないんですよ。どんなに素晴らしい講師を連れて行っても、面白くなるようアレンジしてもなかなか満足していただけない。
リアル 分かる気がします。
結城 そうでしょう? 支援させていただこうと思っているのに、「つまらない」と言われるというのは何か違うなと。そう思っているときに、客先の人事や情報セキュリティの担当者との打ち合わせで、急に「メンタルヘルス対策はできないの?」と言われ始めたんです。しかも、複数のところで同時多発的に。僕もメンタルヘルスについては素人でしたから「何ですか、それ?」と聞いたくらいでした。
よくよく調べて見ると、ちょうどメンタルヘルス関連の法改正が起きそうなタイミングだったんですね。まだハッキリしていなかったのですが、どうやら間違いなさそうだと踏んだんです。
もちろん、柳瀬さんと同じようにメンタルヘルス対策を手掛ける先発組の企業はほかにもありました。ウチの会社は後発組。しかしながら、他社の営業ターゲットは、メンタルヘルス対策の意識が高く、そこに費用を割く余裕がある大手企業でした。
僕としては、本当に困っている業界はどこなんだろうと思いました。個人情報で「つまらない」と言われた体験があったので、どうせやるなら僕たちの支援を喜んでもらいたいと考えたからです。実際にメンタルヘルス関連で労災や損害賠償などの事案が出ている業界を調べたら、介護や医療、福祉関連が多かった。
リアル 先発で支援サービスを提供している会社のターゲットとは、全く違う分野に多くのニーズがあったのですね。
結城 そうです。例えば、介護の現場で仕事をしている人たちは、とても優しくて一生懸命に仕事をしている方が多い。でも、必ずしも介護に志を持っている人だけではありません。業界全体が人材不足ですから。
施設のパンフレットに載っていそうな写真のようにキレイな仕事ばかりでもありません。重労働ですし、中には女性の介護士が担当している高齢者から毎日のようにセクハラを受けるようなケースもあります。複雑な人間関係の中で、うつになってしまうケースが少なくないのです。
ただ、介護保険制度ができてから介護ビジネスに参入し急成長した会社の中には、そもそもの労務管理や人事機能が整っていないところも多く、メンタルヘルス対策にお金をかけるより、介護技術の研修などへの費用が優先されがち。それが現状です。そこで、政府の助成金の活用を促すことで初年度は事業者の実質負担なしで対策できる仕組みを考えました。それを提案すると、「やりたい」という事業者が8~9割に増えたのです。介護事業者に特化した事業を立ち上げてから丸3年になりました。現在は200社ほどを支援させていただいています。
リアル 確かに負担が少ないのなら、事業者としてはうれしいですね。