ある大手電子部品メーカーの社長はこのような不安を口にした。「自動車や医療機器で当社の製品をたくさん使ってもらえるのは嬉しいが、リコールで事業が揺らぐことがないか心配だ」。

 半導体デバイスの応用分野が自動車やヘルスケアの分野に広がり、人の安心・安全にかかわる部分で高度な機能を担うようになってきた。近い将来、先進運転支援システム(ADAS)は自動運転車を支える電子システムへと進化し、体調を見える化するウェアラブル端末も医療機関での診断や治療に向けたデータを提供する機器へと進化していくだろう。こうした応用の広がりは、半導体メーカーに新市場を生み出す。

 一方で、これまでにはない事業リスクの種にもなる。近年、自動車業界では、事故が発生したことによるリコールだけではなく、予防的リコールの実施で消費者の不安を解消する風潮が出てきている。先の大手電子部品メーカー社長は、何らかの保証を求められることで、事業が大きな打撃を受けることを心配しているのだ。

 これまでにも車載機器や医療・ヘルスケア機器に半導体デバイスは使われていた。近年、システム構成がどんどん複雑になり、不具合発生時の責任の所在が分かりにくくなっている。この傾向は、機器がネットにつながり、より困窮を極めている。車載グレードの製品を提供するといった高品質化で対処できる問題ではなくなっている。

 今回のSCR大喜利では、半導体が新市場と引き換えに負う新しいリスクとどのように向き合っていったらよいのか、指針を洗い出すことを目的としている。最初の回答者は、いち半導体部品ユーザー氏である。半導体の使い手の視点から、時代の要請に応える半導体のありかたと、半導体メーカーに生まれる新しい商機について語っていただいた。

いち半導体部品ユーザー
某ICT関連企業
ICT関連企業で装置開発に必要な半導体部品技術を担当。装置開発側の立場だが部品メーカーと装置開発の中間の立場で両方の視点で半導体部品技術を見ている。

【質問1】技術にかかわる部分、事業体制にかかわる部分で、半導体メーカーがリコールリスクに備えて見直すべき点はどこか?
【回答】半導体部品の故障、寿命のモニター、予測機能の充実が重要

【質問2】顧客との関係の側面で、リコールリスクに備えて見直すべき点はどこか?
【回答】何を保証していて何を保証していないのか、明確化が重要

【質問3】リコールリスクを、むしろ半導体メーカーの商機にした製品・サービスはできないか?
【回答】半導体部品のリコールリスク対策は、半導体ユーザーのシステム・リコールリスク対策にも有効である

【質問1の回答】半導体部品の故障、寿命のモニター、予測機能の充実が重要

 従来は、システムの高信頼性化には半導体部品レベルも多重化やエラー自動訂正などで対策している。しかしこれらの対策はコストが掛かると同時に、考え方としては故障することを前提としている。多重化などを施して対策したシステムも、特に対策の無いシステムも、結局は故障したら個々に対処する。これが従来の考え方である。

 これまで個々に対処できたもので、今後はリコールへの対処が求められるケースが増大すると考えられる。リコールのリスクを回避するためには、故障を起こさない対策が重要になる。しかし故障は、いずれ必ず起こってしまうため、故障に至る前に使用を止めることが重要になる。

 従って半導体部品の故障や寿命を正しくモニターし、正確に判断できる技術が今後重要になると予想する。半導体のリーク電流や遅延時間の経年変化を常に測定することで、寿命を予測したり、動作状態を監視するセンサーを追加することで、故障の前兆を察知するといった技術である。