IBM社が、半導体事業を米GLOBALFOUNDRIES社に譲渡することで合意した。半導体関連の知財や人員、技術を移管するほか、米国内の半導体工場やファウンドリ事業も譲渡する居抜きの売却。しかも、事業を譲渡する側のIBM社が、GLOBALFOUNDRIES社に今後3年間で15億米ドルを支払うという驚きの条件付きである。
IBM社のリリースでは、ビッグデータ解析や人工知能型コンピューター「Watson」など高付加価値事業に経営資源を集中させるという前向きな説明がなされている。その一方で、IBM社の2014年7~9月期決算は10四半期連続の減収と業績がズルズルと落ち込む中で、不採算部門を切り離す苦肉の策ではないかとする意見も聞かれる。
今回のSCR大喜利では、この譲渡が両社と半導体業界にもたらす変化を考察することを目的としている。今回の回答者は野村證券の和田木哲哉氏である。
野村證券 グローバル・リサーチ本部 エクイティ・リサーチ部 エレクトロニクス・チーム マネージング・ディレクター
【質問1の回答】HALへと続く未来を得て、ムーアの法則を刷新する可能性を失った
IBM社は半導体事業を持参金付きでGLOBALFOUNDRIES社に譲渡する。これは、実はIBM社の半導体事業の強化の一環である。
20世紀末、世界に冠たる実力を誇っていたIBM社の半導体部門復活に向け、数千億円単位の資金を投入する計画が進行中なのは把握していたのだが、このような形になったのは驚きであった。
DRAMのリペア技術、CMPなど半導体製造になくてはならない、しかし、当時としては革新的な技術の大半はIBM発である。IBM社に比べたら、他の半導体メーカーの発想力、創造力、開発力は2流以下、せいぜい、東芝が1.5流ではなかろうか。
そのIBM社が半導体部門を分離してGLOBALFOUNDRIES社に譲渡することになった。存在感が相当なくなってしまったとはいえ、このような革新的で斬新なアイデアを出せる組織が今後どうなるのか心配である。私は、雪隠詰になりつつある半導体業界を再生する革命的な技術がIBM社から出てくるのではないかと期待していたのだが。
一方でIBM社が注力するのは、記事によれば「次世代のクラウド、モバイル、ビッグデータ・アナリティクス、セキュアなトランザクションに最適化されたシステム」であるが、一言で言えば、ビッグデータ時代のコンピューティングの頂点である人工知能、ここでの地位を確固たるものとし、コンピューター世界の最高峰に立つのがIBM社の目指す未来であろう。
2001年宇宙の旅の人工知能「HAL」を、その名の由来であるIBM社が生み出すこととなろう。