最初はおまけのはずで、小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」に搭載した実績のある技術を使って手早く作るはずだったリモートカメラ「DCAM3」は、「インパクター衝突の瞬間を詳細に観測したい」とするサイエンス側の要求によって、全く系統の異なるアナログとデジタルのカメラを各1基搭載するという設計に変化した。今回は、新たな設計を採用したことによる苦心や、できたこととできなかったこと、さらに、澤田弘崇・宇宙航空研究開発機構(JAXA)月・惑星探査プログラムグループ(JSPEC)開発員の“本業”である「はやぶさ2」のサンプラーについての苦労についてお聞きする。

質量と大きさを先に決めて、その範囲内で作っていく

澤田 既に、はやぶさ2本体への取り付けや分離のインターフェースは固まりつつある段階でした。そこで、まず質量と大きさを決めて、「この大きさ、質量で作ります」としてはやぶさ2の本体とのインターフェースを確定させました。その上で、サイエンスの方々と協力して、「この大きさ、質量の中で作っていきましょう」と半年ぐらいかけて、設計を固めていったんです。
 質量は「DCAM1」「同2」が280gなのに対してDCAM3は550g強です。大きさは直径78mm、長さ80mmです。この中にアナログカメラとアナログ送信系、デジタルカメラとデジタル送信系、電源のリチウム一次電池が入っています。リチウム一次電池は、初代「はやぶさ」の地球帰還カプセルに使った容量1800mAhのものが、フライト実績品となっているので、それを2本並列・3本直列の6本使用しています。

――電池を共有するだけで、完全に別のアナログ系一式とデジタル系一式を積むという設計になったんですね。

澤田 ええ、これがかなり大変で、開発している間は「全く別のカメラにして2基搭載した方がよかったか」と考えたりもしました。内部は部品でいっぱいですから、設計は本当に0.5mm単位で基板の寸法を削っていくことの連続でした。倍のサイズで作ったら簡単に作れるものを、半分の大きさで作ったわけで小型化は大変でした。デジタルとアナログの回路間の混信は、使用する周波数を変えたり、デジタルとアナログの回路の間には遮蔽を入れたりするなど設計段階から注意しましたが、結果的にはさほど大きな問題は生じませんでした。
 それよりも分離した後に1時間ほど単独で飛行するので、こんな小さなカメラでも熱設計が必要でした。カメラや回路の発熱で、そのままでは1時間後には温度が摂氏100度を超えてしまうんですよ。温度によって電池の持ちも変化するので、熱を逃がす仕組みが必要です。円筒形本体の側面に、銀蒸着のフッ素樹脂「テフロン」を使った「熱が逃げる面」を作って、そこから冷やす設計になっています。
 新規に搭載したデジタルカメラは、2000×2000ピクセルのCMOSイメージセンサーを使っています。民生品ベースです。放射線を当てて試験をして、放射線に強い宇宙で使えそうなセンサーを選びました。ひょっとすると、「1999 JU3」に到着するまでに、宇宙放射線で少々“ドット欠け”が発生するかもしれませんが、十分科学的に意味のある画像を取得できると考えています。

――しかし衝突の瞬間を2000×2000ピクセルという高解像度で撮影するのは難しいのではありませんか。高頻度で撮影していると通信が追いつかなくなる可能があるのでは。

澤田 はい、ですので、サイエンスの方々と相談して、フル解像度の画像を取得した後は、少し粗い絵を高頻度で撮影して、またフル解像度で撮って、というような撮影サイクルをかなり工夫して、可能な限りジャストのタイミングでフル解像度の絵を得られるようにしています。これは、DCAM3のプログラムに地上で仕込んでおきます。

――プログラムはリモートで書き換えられるのですか。

澤田 探査機本体経由のプログラム書き換えはできません。IKAROSのDCAM1/2の設計方針を受け継いでいるので、全て地上で決め打ちです。はやぶさ2本体から分離するとスイッチが入って、後はひたすら撮影を続けてデータを送信するだけという設計になっています。小惑星に着いてから、地上で決められるのは分離のタイミングだけです。