電子工作に無線通信を組み込む

 「SDメモリーカードが通信モジュール」とは、一体どういうことでしょうか。おかしなことをいうと思われたかもしれませんが、間違いではありません。実はこのFlashAirは、無線LAN機能を持っているのです。しかも、マイコンも内蔵されているので、FlashAirに電力が供給されていればWebサーバーとして動作します。

 無線LAN以外にもFlashAir固有のさまざまな機能が、API(Application Programming Interface)として用意されています。これらの機能は、Webサーバーの定められたURLにアクセスすることで利用できます。そのAPIの1つに、FlashAirのSDインターフェース端子をGPIO(General Purpose Input/Output)としてオン/オフできるという、ちょっと変わった機能があります。

 先ほど紹介したビデオのクレーンゲームでも、実はこの機能を利用しています。種明かしをするとこうです。

 クレーンゲームのベースとなった市販のおもちゃには、、(1)お金を入れる、(2)右に動かす、(3)奥に動かす、という3つのボタンがあります。このボタンから出ている3本の信号を、それぞれFlashAirの3つのGPIOにつなぎます。そして、タブレットにはFlashAirにアクセスするアプリを仕込んでおきます。このアプリで画面にボタンの絵を表示して、ボタンにタッチしたら各信号に対応するGPIO端子をオン、離したらオフにすることで、ボタンを押している間だけアームが動くという実際のクレーンゲームと同じような操作法を実現しています。ビデオではユニバーサル基板に組まれた回路が見えますが、これはFlashAirへの電源供給と信号のレベル変換をするためのものです。

 電子工作に無線通信を組み込む話に戻ると、FlashAirは、通信方式に無線LAN、プロトコルスタックはHTTPで、ドライバーとプロトコル処理は内蔵マイコンが担ってくれる、という部品だと考えられるということです。SDメモリーカードという形状、無線LAN通信、HTTP、そしてWebサーバー、といずれも広く普及している規格を採用しているため、技術資料も豊富です。もちろんトレードオフもありますが、無線通信機器を作る「はじめの一歩」としてはうってつけではないでしょうか。

 いろいろ便利な機能があっても情報が少なければ、あまり使いたくはないものです。しかし、FlashAirの場合は、「FlashAir Developers」というWebサイトがあり、APIやFlashAir自身の設定変更方法などの情報を積極的に公開しています。応用アプリを作る場合のチュートリアルや、メーカーのサイトで公開していない高度な機能なども紹介しており、大変充実しています。

FlashAirに関する情報が多数掲載されているWebサイト「FlashAir Developers
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 さらに、このサイトに集まるFlashAirコミュニティーの個人・企業が作成したアプリや、製品応用事例も紹介されています。公式アプリの存在しないWindows/MacOS向けのアプリや、ゲーマーの間で流行している画面キャプチャーデバイスとの組み合わせなど、FlashAirのメーカーが提案する使い方だけではない、さまざまな広がりを見せています。