本連載ではここまで、価値に着目する重要性に始まり、価値の発想や実現手段探索のやり方を解説してきました。当然ながら企業における資源は無限ではないため、ここまでのプロセスで得られた多様な価値や実現手段のアイデアを全て具現化することは不可能です。アイデアの中から、製品化・事業化していくべき「イノベーションの種」を取捨選択しなければなりません。

開発の中ではダイヤの原石ほど見落とされる

 「あの大ヒット製品は、発売当初から目をつけていた」「この製品がブームになる前から、自分はヘビーユーザーだった」――多かれ少なかれ、誰しもこんな風に思ったことがあると思います。友人や同僚からそのようなセリフを聞くという方も多いでしょう。ヒットのどのくらい前かはさておき、その製品にいち早く着目していたのであれば、その製品カテゴリにおいて、その人は優れたものを見抜くことができる、つまり目利きに優れているといえます。このように、日常生活において、ユーザーの立場で製品やサービスの目利きができる人は一定数いる印象があります。ところが、組織として製品の企画・開発を進める中で、イノベーションの種を見抜くことができていない企業が多く見られます。何が問題なのでしょうか?

 これまで開発現場を見てきた経験から、目利きがうまくいかない主な要因(=目利きの壁)は、①評価指標が適切でない、②評価のやり方が曖昧である、③評価者の評価力が不足している――の3つにまとめられると筆者は考えます。順に紹介していきます。