半導体業界では、これからの半導体市場の成長を牽引するアプリケーションとして、IoT(Internet of Things)への期待が高まっている。世の中のありとあらゆるモノをネットに接続するというそのコンセプトは、メインフレーム、ミニコン、パソコン、デジタル家電、スマートフォンと続く電子機器のダウンサイジングの流れの延長にあるように見える。
 
 しかし、さまざまなモノから収集した莫大な情報は、データセンターに集められ、ビッグデータとなって初めて価値の高いサービスが提供できるようになる。IoT関連のデバイスや機器が、ダウンサイジングの流れの中で進化してきたこれまでの製品と最も異なる点は、人々の目に触れる機器はあくまでも表面的な役割を演じるに過ぎない点である。価値を生み出すビッグデータが宿る実態は、米Google社や米Amazon社、米Apple社といったサービス・プロバイダが保有するデータセンターの中にある。

 IoT、ビッグデータを使ったサービスの発展に伴って、目に触れる機器に組み込まれるセンサーなどの市場の成長と同時に、データセンターで使われる半導体の市場も急激に伸びていくことだろう。しかし、端末向けの半導体に比して、その市場の実態や技術の動きが見えにくいのが現状だ。特に日本企業は、見えやすい端末の動きに目を奪われがちな傾向があるように思える。

 今回のSCR大喜利では、「ビッグデータの棲家は半導体に何を求めるのか」と題し、なかなか見えにくいデータセンター向け半導体をどのように考えていったらよいのか探った。今回の回答者は野村證券の和田木哲哉氏である。

和田木 哲哉(わだき てつや)
野村證券 グローバル・リサーチ本部 エクイティ・リサーチ部 エレクトロニクス・チーム マネージング・ディレクター
和田木 哲哉(わだき てつや) 1991年東京エレクトロンを経て、2000年に野村證券入社。アナリストとして精密機械・半導体製造装置セクター担当。2010年にInstitutional Investor誌 アナリストランキング1位、2011年 日経ヴェリタス人気アナリストランキング 精密半導体製造装置セクター 1位。著書に「爆発する太陽電池産業」(東洋経済)、「徹底解析半導体製造装置産業」(工業調査会)など

【質問1】データセンター向けデバイスの市場で、半導体業界の勝ち組となるのはどのような企業か?
【回答】 IBM連合

【【質問2】パソコンやスマートフォンなど端末向けデバイスとデータセンター向けデバイスでは、そのビジネスモデルに違いがあるのか?
【回答】違うが、思ったほど違わない

【質問3】データセンター向けデバイス市場の成長は、半導体の設計・製造技術にどのような影響を与える可能性があるのか?
【回答】先端技術の実験場となる

【質問1の回答】IBM連合

 データセンターというか、お題にある“ビッグデータの棲家”はこれから大きく変貌を遂げることとなる。ビッグデータやクラウドについて、書籍によっては「取扱い範囲が広すぎて、具体的に何をさしているか不明確」などと書いてあり、私は大きな驚きを持ってしまった。ビッグデータに関しては、そんなものではないのである。何者かの(もちろん、簡単に特定できますが)、戦略と野望と金勘定に基づいた思想・理念・目的がはっきりと込められているのがビッグデータである。

 IBM社の「Watson」は、技術者の思いつきで突然出現して、プロジェクトが走ったわけではない。一歩下がって全体を見ると、今、米国で色々な企業や政府が賞金を出して、コンピュータの思考アルゴリズムのコンテストをやっている。脳科学が欧米で凄まじい速度で発達しており、余談だが、日本は完全に後塵を拝している。脳を模したコンピュータの研究に、米国で年間数千億円の国家予算が投じられている。これらは、当然ながら、明確な意思の下に、有機的に連動して動いているのである。長くなるので、何がどう、有機的に連動し、今後どうつながって行くかは、次にそれ関係のお題が出てくれば解説するが、これらの動きの中心に位置するのがIBM社である。

 私から見れば、◯TEL社ですら、この流れの中では脇役に見えてしまう。ビッグデータ活用の上で、大きな役割を果たす2大要素の1つ、”アルゴリズム”はIBM社がコグニティブ・コンピューティングの入り口にして象徴と位置付ける「Watson」で、大きく先行している。ただ、アルゴリズムは優れているが、ひたすら、アンサンブルモデルの力押しであった。そして、その次に求められていた、もう一つの鍵、劇的な高速化・低消費電力化を実現するプロセッサ候補としてニューロコンピュータの「TrueNorth」が出てきた。ビッグデータの頭脳の部分は、周到な投資・開発を行ってきた、IBM連合が席巻することとなると大胆予想をする。