HDDは、内部構造が複雑で振動や衝撃に弱い記憶装置である。このことはHDDを扱う者にとっては常識だ。ユーザー側でもこの意識は強く、筆者にも振動衝撃対策の相談が多く寄せられる。そこで、今回はどのような振動や衝撃が故障を導くのか、故障事例と対策について紹介する。

振動衝撃による障害事例

 HDD搭載製品で一般に懸念される振動や衝撃は次の2つに分類できる。自己振動と、外部環境からの振動および衝撃である。

 自己振動はHDD搭載製品の可動部分が原因となって筐体を揺らし、これがHDDと共振して、最悪の場合、ヘッドクラッシュに至るものである。筐体を振動させる原因となるのは、複数台のHDDの共振、空冷ファンの振動やスピーカーの音、警報音などがある。

 外部環境からの振動や衝撃としては、設置環境の外部振動、パネル操作時の振動、輸送時の振動や衝撃、誤って落下させたときの衝撃などがある。

振動によるHDDの弱点

 振動においてHDDが故障するのは、自己振動にせよ、外部からの振動にせよ、共振状態が発生するためだ。共振状態が発生するのは、筐体に加わる振動とHDDの固有振動数が一致したときである。

 この固有振動数の振動がHDDに伝わらないようにすることが振動対策になる。ただ、やっかいなことにHDDの固有振動数は2.5インチ型か3.5インチ型かといった大きさのみならず、機種によって微妙に違う。そのため、搭載HDDの固有振動数をあらかじめ知っておく必要がある。こうした固有振動数はスペックシートには載っていないため、個別に測定するしかない。

 測定の方法は、2つある。1つは性能試験機による測定である。振動周波数を増大させながら、読み出し/書き込み性能を測定する試験である。固有振動数と合致すると、ヘッドと媒体が暴れて、うまく読み書きできなくなるため、読み出し/書き込み性能低下とエラーを起こす。これにより固有振動数が特定できる。測定は、一般に振動周波数を0~2000Hzまで順次変化させていくことで実施する。図1図2図3は異なるモデルのHDDの振動特性を測定したものだ。ぞれぞれ、違う場所で性能低下が起こっていることが見て取れる。

図1 3.5インチ SATA HDD  A社製 1Tバイト品の振動周波数による性能低下
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図2 3.5インチSATA HDD  B社製 1Tバイト品の振動周波数による性能低下
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図3 3.5インチ SATA HDD  C社製  1Tバイト品の振動周波数による性能低下
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 もう1つはSRS(shock response spectrum:衝撃応答スペクトル)解析である。SRS振動解析とは、ある固有振動数をもったそれぞれの部品から構成された製品が衝撃を受けた時に、それぞれの部品の加速度(G値†)応答の最大値を求める解析方法だ(図4)。ユーザーが定義した振動のプロファイルに合わせた波形を生成し、加振システムにマウントされた機器の衝撃を測定する。SRS振動解析により、振動源および外部環境の振動がHDDにどのような加速度(G値)を与えているかを調べられる。

G値=物がぶつかってから止まるまでの速度の変化(=加速度)を重力加速度9.8(m/s2)で割った値を、衝撃値といい、末尾にGを付けて表す。
図4 SRS(Shock Response Spectrum:衝撃応答スペクトル)解析イメージ
測定したい場所にX、Y、Zの3軸の加速度センサーを置く。図では①、②、③の場所に置いたセンサーの波形を示した。
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