初代「はやぶさ」では性能を十分発揮できなかった「レーザー高度計」(LIDAR、ライダー)。「はやぶさ2」では、そのリベンジとして完璧動作を目指すとともに、ライダーを使った新たな試みも計画されている。そのために、どのような改良や工夫が盛り込まれたのか。前回に引き続き、はやぶさ2のライダーの開発を担当した水野貴秀・JAXA宇宙科学研究所准教授に話をお聞きした。

能動型から受動型へ

――波瀾万丈で、一部には悔いも残った初代はやぶさのライダー開発だったわけですが、次の探査機に向けた動きはいつごろから始まったのでしょうか。

水野 初代はやぶさ打ち上げの翌年、2004年からです。

――では、2005年12月に初代はやぶさが音信不通になって、はやぶさ2構想が立ち上がる前から、次世代探査機のためのライダー開発に動いていたのですね。

水野 そうです。2004年度から次の探査ミッションに搭載するタイプのライダーの要素試作を始めました。レーザーの発振を制御するポッケルス・セルのような機構は「Qスイッチ」といいます。電圧をかけて制御するポッケルス・セルは能動型Qスイッチといいます。これに対して、受動型Qスイッチというものもあって、2004年度は受動型スイッチを組み込んだレーザー発振器を試作し、試験しました。

――受動型Qスイッチはどんな構造をしているのでしょうか。

水野 YAGロッドの片端に可飽和吸収体というものをつけるのです。可飽和吸収体は、YAGロッドにある程度までエネルギーがたまるまでは光が出て行くのを抑制するのですが、エネルギー密度が一定以上になると、光を通すようになります。するとミラーを透過してレーザー光が発射されます*1。材質はクロムを添加したガラスなどです。ちょうど、ため池の堰みたいなものです。じわじわと水がたまっていって、水位が堰を越えると一気に水が流れ出すわけです。ミラーとかポッケルス・セルといった構造が不要になって、両側にミラーが蒸着してあるYAGロッドが一本という一体型に小型軽量化されました(図1、2)。

*1 共振器の一方のミラーは薄いハーフミラーになっており、一定以上光が強くなるとそこからレーザー光が出ていく。

図1●受動型Qスイッチを使ったレーザー発振器の構造
図1●受動型Qスイッチを使ったレーザー発振器の構造
図2●はやぶさ2用ライダーのレーザー部の試作品
画像:JAXA
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――可飽和吸収体もミラーもYAGロッドと一体になるわけで、随分構造が簡単になりますね。

水野 地上用のYAGレーザー発振器では珍しい構造ではありません。ごく当たり前のものです。

――では、なぜ初代ではこの方法を使わなかったのですか。

水野 初初代の開発が始まった1990年代半ばには、可飽和吸収体の技術がまだ完全ではなかったからです。この方法には欠点もあって、レーザー光パルスが発生するタイミングを能動的に制御することができません。1マイクロ秒程度のばらつきが発生します。ですからレーザー光が発射されたタイミングをきちんと計測して記録しておく必要があります。アメリカの探査機も今は可飽和吸収体を使ったレーザー発振器を使っています。