企業は常に成長を求められる。「現状維持は衰退と同じ」とも言われる。各種メディアも「増収増益」や「減収減益」という表現を使って、常に前期と比べた増減を問題にしている。売上高や利益がマイナス成長になったら、それだけで大騒ぎだ。

 しかしその一方で、売上高も利益もほぼ横ばいの業績予想を「意志を持った踊り場」と言って正当化する会社がある。国内市場最高益を誇るトヨタ自動車だ。果たして、トヨタ自動車の考え方に正当性はあるのだろうか。

 今回はトヨタ自動車の例を交えて、半ば当然の責務とさえ考えられている感のある企業の成長について、あらためて考えてみたい。

成長は企業の至上命題なのか?

 そもそも、企業はなぜ成長しなければならないのだろうか。まずはこの素朴な問いについて、会計的な側面から考えてみよう。

 企業が利益を生むと、その全額を配当に回さない限り、利益の一部または全部が社内に留保される。その意味合いは、翌期以降の再投資原資である。この再投資原資は、企業が自ら稼ぎ出したものなので、貸借対照表の右側にある「純資産」に繰り入れられる。それに対応して貸借対照表の左側では、現金等の資産が増加する。そして、最終的には設備や原材料などに再投資される。

 このメカニズムから分かるように、企業が順調に利益を出し続けると、貸借対照表はどんどん“膨張”していく(図1)。これは、会社の仕組みが大きくなっていくことを意味する。例えば「設備が増える」「工場が新設される」「本社が大きな自社ビルになる」というような出来事で実感されることである。

図1●利益によって貸借対照表が“膨張”する
図1●利益によって貸借対照表が“膨張”する

 さて、総資産100億円だった企業が前期に10億円の利益を出し、その全額を留保したとする。そうすると、総資産は110億円になる。ここで、当期の利益が前期と同じく10億円だったとする。利益の絶対額で考えれば現状維持だ。しかし、これをROA(総資産利益率)で考えるとどうなるだろうか。

  • ROA(総資産利益率)=利益÷総資産

 ROAとは企業の収益性を見る最も基本となる指標であり、利益を総資産で割って求める。その根底にあるのは「利益は仕組みが生み出す」という考え方だ。

 前期のROAを計算すると10億円(利益)÷100億円(総資産)=10%である。それに対して、当期のそれは10億円(利益)÷110億円(総資産)≒9%となる。同額の利益でもROAは前期より低下するのだ。ROAの観点からすれば、当期は11億円の利益を出してやっと現状維持になる。

 直感的に考えればこれは当然で、総資産という“仕組み”が大きくなった分、それに見合った利益を生み出さなければ収益性は下がるのである。これが「現状維持は衰退と同じ」ということの会計的な説明だ。