2012年、小惑星探査機「はやぶさ2」は二つの危機を乗り越えた。

 2014年打ち上げのためには、2012年度予算で73億円が必須だったが、政府がはやぶさ2に付けたのは30億円だけだった。このままでは2014年の打ち上げは不可能になってしまう。

 地球と目的地である「1999 JU3」の位置関係が次に打ち上げ可能になるのは2017年。しかしこの時は、到着時の地球と太陽の位置が悪く、安全な着陸が難しくなる。2014年と同条件の打ち上げ機会は、2020年までない。打ち上げが6年延びれば、計画に参加するメーカーも人も、その間なんらかの収入を確保しなくてはならない。実際問題として6年もの延期は計画には致命的だ。

 この時、文部科学省と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、不足分を独立行政法人が制度上使途を自らの意志で判断できる経費からやりくりして捻出することを決断した。これにより、2014年打ち上げへの途が開けた。

 次に、ここまでの予算の不足で、遅れに遅れている探査機本体の開発をやりとげる体制の構築が問題となった。資金繰りが付いたが、探査機開発が遅れて2014年に間に合わないという事態は許されない。さらに、なかなかまとまらない理学関係者の意見を取りまとめて、実りある科学観測を実施できる環境を作る必要もあった。

 この時、体制を作っていく責任を担っていたのは、JAXA月・惑星探査プログラムグループ(JSPEC)の統括リーダーを務めていた山浦雄一現理事だった(図1)。2012年9月、國中均・JAXA宇宙科学研究所教授をプロジェクト・マネージャーに、渡邊誠一郎・名古屋大学大学院教授をプロジェクト・サイエンティストに、吉川真・JAXA宇宙研准教授をミッション・マネージャーとする体制が動きだした(図2)。  山浦理事に、どのようにしてはやぶさ2を確実に推進できる体制を構築したかを聞いた。

図1●山浦雄一・JAXA理事
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図2●國中均・JAXA宇宙科学研究所教授(左)、渡邊誠一郎・名古屋大学大学院教授(中央)、吉川真・JAXA宇宙研准教授(右)
写真は2014年8月31日に実施されたはやぶさ2の機体公開時に撮影したもの。
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