全体を俯瞰できる人材がいなくなった

――外部の人が加わることの効用は最近になって知られてきましたが、日本のメーカーはもともと開発プロジェクトに外部の人を入れたがらない傾向があったと思います。そういった意識に変化はありますか?

田子裕子:社内の人材だけでやるのと、外部の人間も入れてやるのでは異なる効果が得られるという意識で私たちにお声掛けしてくださる企業も随分増えました。どの企業も自分たちだけでは問題を処理しきれない状況になっているので、外部の人の意見を聞こうとか、いろいろな要素を採り入れてみようということは、いやが応でもやらざるを得ないのでしょう。

 その意味では、全体的に明るい方向に動こうという雰囲気を感じますし、日本は今年になってから非常に変わったなと思います。昨年まではネガティブな発言が多かった人も、今年に入ったら「水面下でいろいろとやっています」というようなことを話してくれます。もうやるしかないというか、吹っ切れた印象を受けますね。

田子學:僕らのような外部の人間がやるべきことも、より明確になってきた気がします。それは、全体を俯瞰(ふかん)してデザインすることです。

 僕らのような存在が求められるのは、企業の中に全体を見られる人がいなくて、そこをやってほしいというニーズがあるからです。多くの企業では、効率化のために仕事を細分化してきましたが、今は細分化しすぎたせいで総合的に物事を見られる人がいなくなってしまいました。みんなそのことに危機感を覚えています。

(写真:栗原克己)

 そもそも、総合的に見ること自体、経営者でもない限り、中の人には絶対無理な話です。これまでは経営者も細分化に関心が向かっていたので、余計に俯瞰する人が必要です。しかも、新規プロジェクトの場合、単に俯瞰するだけでは不十分で、何が出てくるか全く分からないけれど、共に歩んだら仕事も人生も楽しくなりそうな人を企業は求めています。

 共に歩む人という意味では、コンサルタントなどはそれに近いかもしれません。しかし、コンサルタントは特定の分野に詳しくて丁寧に指導してくれますが、全体を見られる人はなかなかいない。だから、デザインという、本当に何かを生み出したいという根源の部分まで踏み込んだ人たちの知恵が欲しいのだと思います。