ルネサス エレクトロニクスが、倒産の危機にあった状態を脱し、同社の業績は回復しつつある。そして、同社は、期的な生き残り戦略を考えるべきフェーズに入ったとし、次に着手すべき施策の視点として、「新事業の育成」と「粗利率の改善」の2つを挙げた(日経テクノロジーオンライン関連記事)。今回のSCR大喜利では、「ルネサスの改革第2幕を考える」と題し、作田会長が語る今後の同社の方向性を客観的に検証していただいた。今回の回答者はアドバンスト・リサーチ・ジャパンの石野雅彦氏である。

石野 雅彦(いしの まさひこ)
アドバンスト・リサーチ・ジャパン マネージング・ディレクター シニア・アナリスト
 山一証券経済研究所企業調査部、日本興業銀行産業調査部、三菱UFJモルガン・スタンレー証券エクイティリサーチ部を経て、アドバンスト・リサーチ・ジャパンでアナリスト業務を担う。その間一貫して、半導体、電子産業を対象にした調査・分析に従事している。

【質問1】ルネサスは、事業の改革が、長期的な成長・生き残りを考えるフェーズに入ったと言うが、この認識は正しいか?
【回答】これまでの改革の成果が顕在化し、次期戦略を考察する段階に入っている

【質問2】同社の強み・特徴を鑑みて、「新事業の育成」の軸とすべき市場は何か?
【回答】製品別戦略から市場別戦略への移行に沿った新市場の育成に取り組むべき

【質問3】日本の自動車業界の商習慣を論じ、「粗利率の改善」を図るとしているが、こうした方針に勝機を見出すことはできるか?
【回答】自動車業界の粗利益率の改善は、短期的には可能であるが、長期的には予断を許さない

【質問1の回答】これまでの改革の成果が顕在化し、次期戦略を考察する段階に入っている

 4割の人員削減、1500億円に及ぶ資金調達(第三者割当増資)、研究開発費や減価償却費など約1260億円の費用削減などの成果が、主要顧客である自動車関連産業の成長によって顕在化し、次期戦略を考察する段階に入っている。

 ルネサス エレクトロニクスは、三菱電機および日立製作所から分社化していたルネサス テクノロジと、NECから分社化していたNECエレクトロニクスの経営統合により2010年4月に設立された。初代会長に山口純史氏、初代社長に赤尾泰氏が就任。2013年2月に二代目代表取締役社長に鶴丸哲哉氏が就任、同6月に代表取締役会長兼CEOに作田久男が就任している。

 振り返って見ると、1995年にDRAM事業で1社1000億円以上の営業利益を稼ぐほど栄華を極めた半導体3社が統合され、半導体事業の経験が浅い作田氏に事業運営を委託せざるを得ないほど、日本の半導体産業は衰退していたといえる。いずれの社長も、一流企業に嘱望されて入社し、次世代を担う主力事業のエースとして勤務してきた誇り高い従業員を構造改革の大義の下に、4割もの人員を削減しなければならなかった。これは、尋常なことではなかったと言える。オムロンでの経営手腕に優れた作田氏でも、一連の外科手術は、大英断であったと思われる。

 同社の初年度決算に当たる2010年度(2011年3月期)と2013年度(2014年3月期)を比較すると、従業員数は4万6630人から2万7201人に削減し、平均年間給与も748万円から617万円に引き下げ、研究開発費は2026億円(売上高比17.8%)から1153億円(同13.8%)まで縮小(図1)。設備投資抑制、事業所売却などで償却負担を1005億円(同9.1%)から650億円(同7.8%)に抑制した。過去4年の累計当期損失は3505億円に及んだ。2013年9月末には、産業革新機構、トヨタ自動車、日産自動車など9社を割当先とする1500億円の第三者割当増資を実施し、自己資本の毀損を補填している。この間に売上高が2010年度比3049億円減少したが、営業利益が145億円(売上高比1.3%)から676億円(同8.5%)まで改善するに至った。2014年度上期業績では、売上高4190億円、営業利益460億円、営業利益率11%に至るまで改善する予想をしている。

図1

 同社の時価総額も、10月時点では1兆4000億円を超えている(図2)。時価総額だけで判断すれば、テキサスインスツルメンツの4兆9000億円には及ばないが、アナログデバイスと同等であり、インフィニオンテクノロジーズを凌駕している。ただし、あくまで産業革新機構など特定株主が大半を占めていることから、妥当な評価とは言えない側面を内包してはいる。

図2

 同社は、元々、日立製作所、三菱電機、NECの連合体であるが、各社と同社の平均年間給与(2013年度ベース)を比較すると、日立製作所が828万円(40.7歳)、三菱電機が747万円(40.4歳)、日本電気が746万円(42.3歳)、同社が617万円(43.9歳)と約130万円以上の格差が出ている。私立大学の年間学費相当する格差が出ている事実は、今後のモチベーションを改善させる重要な指標にもなりうる。