ルネサス エレクトロニクスは2014年9月2日、同社初となる開発者向け総合プライベートイベント「Renesas DevCon Japan 2014」を開催した(日経テクノロジーオンライン関連記事)。「一歩先の世界へ ~Keeps you ahead of the challenges~」をテーマにした同イベントは、基調講演で同社 代表取締役会長兼CEOの作田久男氏が「改革はまだ道半ばだが、その次の一歩へ進む準備ができてきた。変革しつつあるルネサスの姿と、我々が持つ卓越した技術を体感してもらいたい」と言うように、改革のフェーズが変わったことを内外に印象づけるものだった。

 また作田会長は、報道機関を対象にした記者会見にも登場し、現在の問題意識、これからの方向性などについて語った(添付記事「ルネサス作田会長」参照)。倒産の危機にあった就任時から1年3ヵ月経ち、同社の業績は回復基調にある。そして、長期的な生き残り戦略を考えるべきフェーズに入ってきたとしている。そして、着手すべき施策の視点として、「新事業の育成」と「粗利率の改善」の2つを挙げた。

 今回のSCR大喜利では、「ルネサスの改革第2幕を考える」と題し、作田会長が語る今後の同社の方向性を客観的に検証していただいた。今回の回答者は野村證券の和田木哲哉氏である。

和田木 哲哉(わだき てつや)
野村證券 グローバル・リサーチ本部 エクイティ・リサーチ部 エレクトロニクス・チーム マネージング・ディレクター
和田木 哲哉(わだき てつや) 1991年東京エレクトロンを経て、2000年に野村證券入社。アナリストとして精密機械・半導体製造装置セクター担当。2010年にInstitutional Investor誌 アナリストランキング1位、2011年 日経ヴェリタス人気アナリストランキング 精密半導体製造装置セクター 1位。著書に「爆発する太陽電池産業」(東洋経済)、「徹底解析半導体製造装置産業」(工業調査会)など

【質問1】ルネサスは、事業の改革が、長期的な成長・生き残りを考えるフェーズに入ったと言うが、この認識は正しいか?
【回答】正しい。タイミングは遅いが

【質問2】同社の強み・特徴を鑑みて、「新事業の育成」の軸とすべき市場は何か?
【回答】 小型、高信頼性、低消費電力、高コスト・パフォーマンスのマイコン。RF、MCU、センサ一体型チップ、もしくは、さらにフラッシュメモリーも一体化した高密度実装デバイスなど

【質問3】日本の自動車業界の商習慣を論じ、「粗利率の改善」を図るとしているが、こうした方針に勝機を見出すことはできるか?
【回答】できる。ただ、今まで、こういう観点が欠けていたことには意外感がある

【質問1の回答】正しい。タイミングは遅いが

 ルネサスでは、旧日立製作所出身者と旧三菱電機出身者のたすき掛け人事によって、意思決定は遅くなりがちであり非効率であった。統合後に当然やるべきであった構造改革は、余りに遅すぎ、かつ不徹底であった。成長戦略は不明確であり、市場関係者にも成長戦略の真意が十分伝わらないという状況下で、ルネサスの先行きを楽観視できた人間は、ほぼ皆無であったであろう。

 ルネサスの復活に必要なのは、資金でも、技術でも、優秀なエンジニアでも、最新鋭の工場でもなく、社内外の声に縛られずに正しいと思った経営判断をできる経営者であった。ルネサスの当時の技術力を持ってすれば、普通に正しいと思える経営判断さえあれば、少なくとも当時の何倍もの利益は出せていた。

 社外から「自分の声は大きいが、他人の言うことは聞かない」タイプの経営者を招請して社長にすれば、大きく運命は変わっていたはずである。ルネサスでは、就任直後の作田会長が「このままだと倒産だ」と評するような状況となって、ようやく、外部から経営者を招請した。そして、招請されたのが作田氏である。

 ここからのルネサスの復活に大いに期待したい。作田氏が改革に手腕を振るって、社内外から反発の声が出れば出るほど、我々のルネサスに期待は高まるのである。