米Google社は、利用者がインターネット上で閲覧したWebサイトなどを観察して、広告の表示に利用します。米Amazon.com社は、同社のサイトで購入した商品の履歴から個人の嗜好を判断するようです。いずれもユーザーがネットに残した痕跡に、事業の種を見つけたわけです。この成功を現実世界で再現しようと、両社のみならず多くのエレクトロニクス企業が、例えば腕時計のような何かを、ユーザーの身に着けさせようと必死です。ちょっと視点を変えれば、ほとんどユーザーの注意を引かずに、その振る舞いを活用できる、別のビジネスチャンスがあるのに。

 ここまで書くと、いささか筆がすべり過ぎですが、日経エレクトロニクス最新号で取り上げたように、家庭の電力データに多くの企業が群がる理由として、個人情報の活用があるのは確かです(記事)。何しろエネルギーの消費量は、使い手の活動を忠実に映す鏡であるはずですから。とりわけ世帯単位での情報、いわば一家の活動量をうかがい知る手段がほかにはないことも、各社が色めき立つ一因のようです。

 たかが活動量と侮るなかれ。各戸の電力データからは、個々の家電製品の稼働状況から、果ては結婚や出産といった出来事までが検知可能になるとのこと。もちろん、手にした情報をどう生かすかは技術者の発想次第ですが、意表をつく用途が、いつ何時、現れないとも限りません。各社の知恵比べに期待したいところです。

 現に、身に着ける方の装置では、昔は想像できなかった使い道が花開きつつあります。中でも利点が明快なのがスポーツへの応用です。テニスやゴルフの動きを検出するセンサーは、これらをたしなまない自分ですら好奇心をくすぐられます。こうしたセンサーを縦横無尽に活用すれば、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの楽しみ方は一変するかもしれません。緊迫した試合の映像とともに、選手の鼓動がスマホの振動になって伝わってきたら…。考えただけでドキドキします。

 ただし、これが実現するかどうかは、技術の問題よりも国際オリンピック委員会(IOC)の胸三寸。日経エレクトロニクス最新号の特別企画(記事)では、あり得べき将来像だけでなく、実現への戦略も述べてもらいました。筆者の高野雅晴氏は以前は小誌の記者でした。旧弊を打ち破る熱意を読者に伝えてもらおうと、何年かぶりの執筆をお願いした次第です。

 電力事業や五輪に限らず今後の製品やサービス作りに現実の縛りはつきものです。数々の制約条件の下で最適解を導く作業はエンジニアリングそのもの。規制や政治とうまく折り合う発想も技術者に求められています。