このように発想して、当時教授として着任していた島根医科大学(現・島根大学医学部)の研究室内に細胞培養室をつくり、いろいろと実験を重ねた。「組織をしっかりつくってくれ、なおかつ安全な足場となってくれる支持体となる材料探しの毎日でした。ふとひらめいて着目したのが、皮膚科や形成外科領域でシワの治療に用いられるコラーゲンの一種、アテロコラーゲンです」

 アテロコラーゲンとは、皮膚や靭帯、腱などに含まれるたんぱく質のコラーゲンの一種で、コラーゲン分子の両端にある「テロペプチド」と呼ばれる部分が酵素で切断されている。テロペプチドは生物種によって差が大きいため、免疫反応を誘発する原因となるが、アテロコラーゲンはテロペプチドが除去されているために免疫拒絶が起こりにくく、美容整形をはじめ臨床での使用実績は多い。

 「アテロコラーゲンは、私自身が人工神経の研究で使っていて、副作用が起こりにくいことはわかっていました。大腿骨などの正常な軟骨片を摘出し、細かく砕いて酵素で軟骨細胞を取り出した後、アテロコラーゲンのなかで軟骨細胞を培養すると、3週間後には細胞は細胞外基質に囲まれてゼリー状の硬さとなりました。これを欠損部分にはめ込んで移植し、脛骨(けいこつ)から採取した骨膜で蓋をして漏れ出さないように縫いつけます。定着後、アテロコラーゲンは徐々に吸収され溶けてなくなっていきます」

 世界に先駆けて越智さんが三次元培養の「アテロコラーゲンゲル包埋(ほうまい)自家培養軟骨細胞移植術」を創案したのは、1996年のことだ。

自家培養軟骨移植の流れ(ひざ関節)
写真:J-Tec