私のところに届けられる業界雑誌
私のところに届けられる業界雑誌
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 最近の日本では、規模縮小が続く民生エレクトロニクス産業に替わり得る市場として、メディカル・エレクトロニクスに注目が集まっているようです。大きな展示会では医療コーナーが設けられていますし、雑誌などでもメディカル・エレクトロニクスの特集をよく見かけます。専門セミナーでも、メディカルと名が付くと、受講者の集まりが良いようです。

 私の現在の仕事の多くが、メディカル・エレクトロニクスに関連しているせいか、よく引っ張り出されます。集まってくる受講者の方々の顔ぶれを見てみますと、材料メーカー、部品メーカー、回路メーカーなどの研究開発担当者や、市場調査担当者などが多いようです。ただ、質問の内容から察するに、具体的なターゲットやプロジェクトを持っているケースは少なく、「メディカル分野で何か儲かりそうな分野はないか?」というレベルの企業が少なくないようです。

 一方、米国でメディカル・エレクトロニクス関連の仕事をしていて感じるのは、技術の革新性と市場の広がりです。ひと口にメディカル・エレクトロニクスといっても、分野は多様で裾野が大きいので、全体像を掴むのは簡単ではありません。身近なところでは、血液検査に使われる使い捨てセンサーのような1個数十セントのデバイスから、MRIやPETのように1セットで数百万ドルもするものまであり、ひとくくりに議論するのには無理があります。しかし、ヘルスケア分野を含めれば、全米での市場規模が100億ドルを超えているのは確かで、しかも今後とも高い成長率を維持し続けるものと考えられています。

 この要因としては、米国で生活習慣病が蔓延している一方で、健康志向が広がっていることがあげられます。このような膨大な市場を狙って、実に多くの大学、研究機関、企業、病院がしのぎを削っています。

 とにかく、米国では発信される情報量が違います。まずメディカル・エレクトロニクスの大規模なイベントが、毎年3回、ニューヨーク、中西部、シリコンバレーで開催され、多くの来場者を集めています。中小の専門学会や展示会などは、どれくらいあるかも見当がつきません。専門メディアの規模も大きくなっています。毎月私のところに届けられる雑誌だけでも、6~7点はあります。

 さらに最近では、ネットを通じてのニュースレターなどが多くなり、毎日何件かが届けられます。それぞれが、毎日“画期的な”技術や製品を紹介していますので、逐一レビューしていれば、それだけで1日かかるほどです。私は、関係しそうなニュースを拾い読みする程度ですが、それでも1時間くらいはかかってしまいます。

 このような新技術のニュースを見ていると、その多くがベンチャー企業によるものだということに気が付きます。しかも、思い付きのような技術ではなく、ほとんどが医療機関での臨床実績に基づいたものです。この辺りに、米国メディカル・エレクトロニクス業界の幅広さだけでなく、奥深さ、重厚さを感じます。

 最近聞いたニュースによれば、「日本の大手企業が、このようなベンチャー企業を買収することにより、短期間でメディカル・エレクトロニクス市場に参入しようとしている」とのことでした。確かに、短期間で新技術やビジネスを手に入れようとするのであれば、こうしたアプローチはあり得るかもしれません。しかし、メディカルという人間の命に関わる仕事をお金で買うという安直な姿勢には、少なからず抵抗を感じてしまいます。新しい企業がメディカル・エレクトロニクス市場で成功するには、かなり地味で息の長いアプローチが必要だと思います。私の経験から言わせてもらえば、それなりの覚悟と、血と汗を流す努力が必要なのです。