SCR大喜利、今回からのテーマは「TSVの真価を量る」である。TSVの実用化によって期待できること、TSVが実用化したとしても期待できないことを、“Mooreの法則”に沿って進化し続けてきた半導体とその利用技術の経緯を踏まえながら、議論している。今回の回答者には、微細加工研究所の湯之上 隆氏にご登場いただいた。
微細加工研究所 所長
【質問1の回答】ないのではないか
一般的にMooreの法則は、「トランジスタの集積度は3年で4倍(または2年で2倍)になる」と言われている。これに対して、米国の発明家であり実業家でもあるRay Kurzweil氏は、著書『ポスト・ヒューマン誕生』(NHK出版)の中で、Mooreの法則を「MIPS当たりのコストの低下」という指標でとらえている。ここで、MIPS(Million Instructions Per Second)は、コンピュータの処理速度を表す単位である。
Kurzweil氏によれば、プロセッサーにおけるトランジスタ数は2年で2倍になり、トランジスタの平均価格は1.6年で半減し、プロセッサーの性能(MIPS)は1.8年で2倍になっている。以上から、「トランジスタの周波数当たりのコストは、1.1年で半減する」という結果を導いている。これが、Kurzweil氏が言うMooreの法則の本質である。
果たして、TSVを用いた半導体の3次元化技術は、上記のMooreの法則の本質を満足することができるだろうか。チップをTSVで上下に直結することから、周波数など速度の向上には多少の恩恵があるかもしれない。しかし、コストの低減には問題がある。
実際、爆発的に普及するスマートフォンへの適用のために、2011年末に国際的な半導体部品の規格団体であるJEDECがTSVを使ったワイドI/O DRAMを用いるメモリーの新規格を発表し、2013年に量産適用されるはずだったにも関わらず、コストが従来構造のPoP(Package on Package)の2.4倍になることがボトルネックとなり、採用は見送られた経緯がある。
コストの問題を解決しない限り、TSVの普及はあり得ない。