半導体の技術と業界の今と未来を、さまざまな視座にいる識者が論じる「SCR大喜利」、今回のテーマは「控えめな支配者ARMの功罪」である。なぜこれほどARMが普及したのか、ARMの未来のポジションはといった、ARMに関してあまり語られていな側面を議論している。今回の回答者は、某半導体メーカーの清水洋治氏である。ARMに競合するプロセッサーを扱う視座から議論する。
清水洋治(しみず ひろはる)
某半導体メーカー
【質問1の回答】煩わしさから解放されたこと
プロセッサーの開発は、さほど難しいことではない。そのために半導体メーカーの数だけプロセッサーが存在していた時代が過去にはあった。その中にはローカルスターに輝いたものも幾つかあった。
難しいことではないプロセッサーの設計・開発。しかし、それはあくまでもハード面での話である。プロセッサーを作っても、そのままの剥き出しでは商品にならない。都度ハードを作り、さらにサブシステムを作り、それを検証し、ソフト資産を作っていく。この長いロードに費用も人も膨大にかかる。
こうした煩わしさから解放されることが「IP」資産を活用する大きな理由である。したがってARMコアを使うことは、各半導体メーカーにとって煩わしさからの解放という、大きな利用の動機があったと考えている。ほぼ同じ性能ならば、ARMを使い、より良いモノが社内にあれば、自社製を使う。それは今も多くの半導体メーカーもそうしている。ARMコアで市場が広がる、商機が増えるならARMを使うという次元で捉えている。
ARMコアのポジションが決定的になったのは、やはり10年以上前の話だが、NOKIA社のベースバンド・チップに活用され、通信機器での実績を積んだことにある。実績のあるプロセッサーは、ブームではなく、地に足のついたエンジニアにも評価されていったと記憶している。