「再生医療の神様がいる!そのとき、思いました」
「細胞培養には茶道と同じように"お作法"があります」
「メラノサイトといううちの子たちは、一匹、二匹と数えます。かわいい子たちなんですよ」

大きな期待が寄せられている再生医療の分野で、日本初の製造販売承認を取得した自家培養表皮ジェイス、その開発に携わった人たちの言葉には、不思議な吸引力がある。公的医療保険が使える再生医療製品第一号でもあるジェイスの細胞シートは、年間約2000枚の移植が行われ、「大やけど」といわれる重症熱傷を負った人たちの皮膚を再生し、命を救っている。

「21世紀の医療そのものを変えていく」志を持った人たちが集まる組織、J‐TECの開発物語の一つをお届けしよう。

ヒト細胞を用いた日本で最初の再生医療製品「自家培養表皮ジェイス」の開発リーダーを務めた井家益和さん。
撮影 根岸聰一郎

深夜の雄叫(おたけ)び

「ウオー」という雄叫びが、深夜の研究棟に響き渡った。

 パソコンの画面に示されるデータ解析で得られる製品規格値の一つひとつのデータが、あたかも神の手に導かれていくように、イメージしたとおりの数値につぎつぎと整然と合致していくではないか。「再生医療の神様がいる!そのとき、思いました」

 ヒト細胞を組み込んだ日本で最初の再生医療製品「自家培養表皮ジェイス」のプロダクトマネージャー、井家(いのいえ)益和さんは、ジェイスの製造販売承認の取得を確信した瞬間を語る。「サッカーの神様はいましたね。もう最高です!」

 女子サッカーワールドカップのドイツ大会(2011年)決勝で悲願の初優勝を果たし、最優秀選手にも輝いた「なでしこジャパン」の澤穂希(さわほまれ)選手は、金色の紙吹雪が舞うなかでこう叫んだ。敗れた米国チームの選手は「目に見えないなにかが彼女たちを後押ししていたように見えた」と述べている。