大阪大学 大学院基礎工学研究科 システム創成専攻 教授の石黒浩氏は、人間に酷似したロボット「アンドロイド」や遠隔操作型アンドロイド「ジェミノイド」などを開発したことで知られる、ロボット研究の第一人者だ。2014年7月1日には科学技術振興機構(JST)が、石黒氏が研究を総括する研究領域「共生ヒューマンロボットインタラクション」を戦略的創造研究推進事業 統括実施型研究(ERATO)における2014年度の新規研究領域として選出した(関連記事)。石黒氏に、ロボット関連研究にかける思いを聞いた。(聞き手は竹居智久=日経エレクトロニクス)

──ロボットの研究に携わるようになった経緯を教えてください。

大阪大学 大学院基礎工学研究科 システム創成専攻 教授の石黒浩氏
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 もともと画像処理やコンピュータービジョンの研究をやっていて、「機械による認識とはどういうことなのか」を追求していったら人工知能の研究をやることになりました。そして人工知能を研究していると、今度はコンピューターが蓄えた知識や経験を生かす手段として身体が必要になってくる。それでロボットの研究に行き着きました。自然な流れだったと思っています。

 僕がロボットの研究をするのは、「人間」に興味を持っているからです。人間は、自分の内側を見る手段を持っていませんよね。僕らの感覚器はすべて外を向いていて、自分の脳の中で何が起こっているかといった内側はまったく分からない。

 例えば人間に似た「アンドロイド」をつくったりしたのは、「ほとんど人と思えるようなものを前にしたときに人はどのように反応するか」を見るためです。人が何を思い、どう受け入れるのか。それを観察することによって人とは何かが少し見えてくるじゃないですか。やりたいのは、ロボットを通じて人を理解することなんです。「人間とは何か」という究極の問いへの答えに近づきたい。

 人と機械の境界はどこにあると思いますか。境界はどんどんあいまいになってきているし、極端な話、コンピューターが人と思えるようなものになれる可能性すらあります。しかし、今のところ「自分が何者であるか」を考え続ける機械はつくられていない。「人間とは何か」を考えられることが、人間としての価値なのです。

 こういう問題を考えるのに、哲学や医学からのアプローチもあるでしょう。僕はたまたまコンピューターサイエンスや人工知能、ロボットをやっていたから、「表面的に人間に見えるものをつくるところから『人間とは何か』を考えよう」というやり方になった。それなりに面白いことができたのではないかと思っています。