《結婚式では愛する人と腕を組んで、バージンロードをつえなしで歩きたい》――願いを抱いたのは、東京都内の会社員、大村(旧姓馬場)啓子さん。

 生まれつき歩行に障がいがあり、小中高、大学と学校へは両手につえをついて通った。福祉大学を卒業し、日本を代表する電気機器メーカーに就職。就業中に障がい者雇用・人材育成の分野に関心を抱き、障がい者雇用専門の人材サービスを行うベンチャー企業に転職する。充実した日々を送っていたところ、2009年5月14日朝、急に下肢に脱力を感じ立てなくなり、車椅子生活となる。診断は脊髄症(脊髄血管疾患)による下肢機能障害。

 症状が回復して立てるようになったころ、理学療法士の男性と婚約。結婚式を決めたとき、つえを使わずにバージンロードを歩く方法はないものか、と考えた。そのとき頭に浮かんだのが、以前、ウェブサイトで情報を得たHALの存在だ。

「結婚式を行う予定です。つえを使わずにバージンロードを歩きたいと考えています」

「HALを使って喜んでくれた人の笑顔がなによりのご褒美で、それまでの苦労も吹き飛んでしまいます」と語る山海教授。
撮影 根岸聰一郎

 大村さんからのメールが、山海教授らが設立したHALの製造販売会社「サイバーダイン」に届いたのは昨年(2011年)2月のことだ。

 同社はいまや日本最大の研究学園都市となった茨城県つくば市研究学園内に立地するが、近くの大型ショッピングセンターの中に「サイバーダインスタジオ」を開設、そこにHALを用いたトレーニング施設「HAL FIT」を併設している。そこで初めてHALを装着して歩行訓練を行ったときの気持ちを、大村さんはみずからのブログにつづっている。

「2月26日、待ちに待ったロボットを使った歩行トレーニングを行ってきました。
  トレーニング場所は、つくば市にあるサイバーダインスタジオでイーアスつくばというショッピングセンターの中にあります。完全車椅子生活になったあの日から一年半以上たち、まさかまた歩行のトレーニングができるまでに回復するとは、あらゆるすべてのめぐりあわせに感謝、感謝です。私の意思とリアルタイムで連動してロボットが動いてくれるってすごく感動的でした。(生体電位信号を読み取って時差なく動いてくれるようになっているようです)
  HALはロボットですが、たった70分でとても愛着がわきました。
  人間が考える技術ってすごいですね。人が実現したいこと、カタチになる素晴らしさを歩きながら実感しました。これから定期的にトレーニングをしようと思います」

 HAL FITで約半年間訓練を重ねて、結婚式の日を迎える。以下は、そのときの様子を伝える毎日新聞の記事からの引用だ。

――昨年(2011年)10月、品川区内の結婚式場。「新郎、新婦のご入場です」。扉が開かれると、目の前に真っすぐなバージンロードが延びていた。拍手の中、HALなしで、夫に支えられて歩いた。最前列では両親が見つめていた。子どもの頃はつえをつき、近年も車いすの娘しか知らなかったからだ。――