前回の本欄では、定義の曖昧な「システムLSI」という言葉を乱用した日系半導体メーカーの戦略が、それゆえに曖昧になったということを述べた。いまだに戦略が定まらない企業が散見される一方で、最近では多くの半導体メーカーが車載市場に注力しようと戦略を立案している。調査会社である当社に対しても、車載関連の問い合わせが急増している。システムLSIの場合と同様、「日系各社が一斉に」車載半導体へと向かう姿勢には違和感を感じないでもないが、ここでは車載半導体市場の実態を整理しつつ、この市場での差異化戦略をどこに求めていくべきかについての考えを述べたい。

「一斉に群がる」状況は長く続かない

 2013年における車載半導体の世界市場規模は263億米ドル。これは半導体市場全体の8.3%に相当する。これが2018年には362億米ドル(同9.7%に相当)に成長する、と我々は予測している。

 半導体市場全体の年平均成長率が+3.3%にとどまる見通しであるのに対し、車載市場は同+6.6%が見込まれ、相対的に高い成長が期待できる。ただしこの数字は、車載半導体市場が各社が一斉に注力するほど「際立って魅力的」なわけではないことも示している。

 日系半導体メーカーの多くは、パソコンや携帯電話機、デジタル家電など、大量に半導体を消費してきた主要アプリケーション市場では勝てなかった。それらのアプリケーションに、今後高い市場成長を期待することも難しい。この現状を考えれば、生き残りをかけて新しい戦略市場を定める必要があるはずだ。

 幸い、自動車ではインテリジェント化やハイブリッド化が進むことで、1台当たりの半導体搭載金額は増える傾向にある。そして日本の自動車産業は世界でも相対的に優位なポジションを維持している。となれば、各社がこぞって車載半導体市場に注力するのは自然な流れだろう。だが一方で、年率2ケタ%の成長が期待できるわけではなく、品質や信頼性に関する要求も極めて厳しい市場に多数の半導体メーカーが群がる状況は、長くは続かないと筆者はみている。

 車載半導体と一言で言っても、さまざまな製品がある。ここでは代表的な例としてマイコンとアナログICに焦点を当て、日系メーカーの立ち位置を整理してみよう。