ニュートンやアインシュタインなど科学のパラダイムを破壊してきた物理学者の発見の裏には、どんな秘密があるのか。京都大学大学院総合生存学館(思修館)の山口栄一教授は、新著『死ぬまでに学びたい5つの物理学』(筑摩選書)で、天才科学者たちの人間ドラマから知の創造プロセスを汲み出した。新しい知を「創発」するためには、主流から外れ、「完全なる自己の自由」を獲得することが不可欠だという。(取材・構成は、片岡義博=フリー編集者)

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ニュートンはとんでもない

――の中で、ニュートンの創造性は「この世のものとは思えない」とあって、アインシュタインと比べても突出していると書かれています。本では簡単な数式を使ってアインシュタインの相対性理論を導き出すプロセスなどを紹介していますが、文系的な感覚だと、時間や空間が伸び縮みするアインシュタインの相対性理論こそ、我々の想像を絶した発見に思えるのですが…。

山口 ソ連史上最も偉大な物理学者レフ・ランダウが、物理学者を0から5までのランクに分類・評価しています。0が最高、5が最低で、ランク1はランク2の10倍の価値という対数スケールですが、それだとニュートンはランク0、アインシュタインは0.5。つまり、アインシュタインの価値はニュートンよりも相当落ちると評価しています。

――ほお。ニュートンのとんでもなさを一言で表現すると、どういうことになりますか。

山口 彼は「宇宙全体を貫く法則がある」と言った世界で初めての人です。そこから先の発見はすべて、その上に積み上がっている。そういう意味ではやっぱりとんでもないですね。

 なぜなら、ニュートンはケプラーの3法則から「この奥に何かあるぞ」と考えて、万有引力の法則を思い付く。でも、ケプラーの3法則はあくまで惑星についてのものです。それが宇宙全体に対しても成立しているなどとは誰も言えません。

ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジのチャペルにあるニュートンの石像
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――それまで天上界と地上界には別々の真理があると考えられていたけれど、ニュートンはこれをつなげた、と。

山口 はい。しかもそこでいう天上界は、あくまで惑星、太陽系の話です。それが遠い恒星を含むすべての宇宙で成り立つなんて、「神様はこんなに美しい単純な法則でこの宇宙をつくった」という高らかな宣言にほかならない。こんなことは普通言えないので、だから見つけた当初、論文にしていないのだと私は思います。

――「言えない」というのは、当時の世界観とは全く相いれないということですか。

山口 相いれないです。だからとんでもないことを言う人は、やっぱりとんでもない人だと思います。