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日本では科学を論じないしきたりがある

日本では科学を論じないしきたりがある

ニュートンもアインシュタインも、悟りを求めていた

片岡 義博=フリー編集者
2014/08/22 00:00
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 福島の原子力発電所事故をきっかけに、技術やその根底にある科学との向き合い方が問われている。「日本の社会には科学リテラシーがない」。京都大学大学院総合生存学館(思修館)の山口栄一教授は、この問題意識から新著『死ぬまでに学びたい5つの物理学』(筑摩選書)を執筆した。同書に記したような天才物理学者たちの知の創造プロセスを知ることが、科学リテラシーを高めるための第一歩になると山口教授は語る。(取材・構成は、片岡義博=フリー編集者)

量子力学は現実社会と関係がない?

――『死ぬまでに学びたい5つの物理学』という本は、物理学の入門書でありながら、文系の読者も面白く学べることを目指しています。そして、序章のタイトルは「強く生きるために物理学を学ぶ」。一般的な物理学の書籍とは一線を画していますが、この本を書くきっかけから伺いたいと思います。

山口 私は1990年代の終わりまで永らくフランスに住んでいました。ところが帰国したら日本は大変なことになっていて、技術系の大企業が次々に中央研究所を閉じていった。

――山口さんはNTT基礎研究所に在籍していましたね。

山口 ええ、純粋科学をやっていました。NTT基礎研だけじゃなくて、まず日立製作所の基礎研究所が事実上つぶれ、富士通、NEC、ソニーの中央研究所も内側から崩れていきました。要するに日本の企業にとって科学とは「やっていれば何か生まれるかもしれない」くらいの存在だったということです。「思いもよらない物事を見つけたり、あらしめたりする」ことこそがサイエンス型企業のブレイクスルーにとって最重要なことだということに、経営者は全く気づいてなかった。私は15年後の2010年ないし2014年には、日本のサイエンス型大企業は世界の中で意味を持たなくなると予見しました。だから、私はNTT基礎研を辞めて21世紀政策研究所に移り、イノベーション政策研究と政策提言を始めるとともに、ベンチャー企業を創りました。

南仏ソフィア・アンティポリスの研究所、IMRA Europe。カンヌやニースにほど近い。招待されて、5年間プロジェクトを率いた。
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 それから私は同志社大学に請われてイノベーション理論や技術経営を教え研究する立場になるわけですけれど、教授会で文系の教員と話して愕然(がくぜん)としました。私が「経営で技術を教えるなら科学を教えなければいけないし、科学を教えるなら柱となる量子力学の思想は教えた方がいい」と話すと、みんな「えっ、量子力学? 現実世界とは全然関係ないじゃないか」と唖然(あぜん)としている。げらげら笑い出す経済学者もいました。

――位置と運動量は同時には決まらない、というような現実離れした世界の話だと。

山口栄一(やまぐち・えいいち)
京都大学大学院総合生存学館(思修館)教授。1955年福岡市生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修士課程修了、理学博士。米ノートルダム大学客員研究員、NTT基礎研究所主幹研究員、フランスIMRA Europe招聘研究員、経団連21世紀政策研究所研究主幹、同志社大学大学院教授、英ケンブリッジ大学クレアホール客員フェローなどを経て、2014年から現職。

山口 ええ、この人たちは携帯電話やパソコンをはじめ半導体などを扱うミクロの世界が量子力学に従って動いていることなど何も知らないのだということに気づいて愕然としたのです。私はそのときからイノベーション論を語る際には、並行して「科学の魂」、すなわち科学者たちがどうやって彼らの理論に行き着いたのかを語りたいと思っていました。それで「科学者の魂物語」を書いてみようと思ったのです。

――その前に大学院で文系と理系を統合するような授業をされていましたね。

山口 そうです。要するに日本は教育システムの中で科学を工学の付随物のようにしか教えていない。だから文系はいつも科学を切り離して考える。これでは日本の科学リテラシーはいつまで経っても上がりません。だから文系にフォーカスし、科学が思想や哲学とどうつながっているのかを教える科目をつくりました。

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