「デンソー、次の10年」(記事)の答えをすぐに知りたい方は、日経エレクトロニクス8月18日号のp.30にある図1を見て下さい。同社が作成した「2025年未来社会像」と題する映像からの抜粋です。私は正直意表を突かれました。記事にもありますが「数年以内に実現できそう」と思ってしまったのです。

 この裏には自動車業界とエレクトロニクス業界の時間感覚の違いがありそうです。一般に、家電製品などの電子機器より、自動車の方が将来を見て開発を進めると言われます。実際、10年前の2004年を振り返ると、「iPhone」も「iPad」もなかった電子業界の話題は「Blu-ray Disc」と「HD-DVD」が火花を散らす次世代光ディスクの規格争いでした。片や自動車業界ではトヨタ自動車の2代目プリウスが発売後1年たたないくらいの時期です。デンソーにとって10年後は、高い確度で予測でき、確実な実現を求められる「今の仕事」なのでしょう。

 両業界の感覚の違いを説明する理由の1つは「ムーアの法則」です。半導体の集積度は10年も経てば100倍にも達するので、実現できる用途が様変わりする上、新たに生まれる機器の市場も予測は困難。対する自動車では、そこまで急激な変化をもたらす技術要因は見当たらず、先行きの見取り図はずっと描きやすいはずです。

 もっとも、最近になってムーアの法則の継続はますます難しくなっています。次世代の露光技術と期待されるEUV露光は、依然として実用化のメドが立ちません。技術革新の原動力がスローダウンすれば、電子業界の時間感覚が自動車業界に近づいていく可能性はあります。

 一方で電子業界には、せわしない時間感覚を形作る要因がほかにもあります。次々に現れるベンチャー企業の存在です。水平分業が浸透し、標準部品の組み合わせで様々な製品を作れるようになった結果、数人で起業したベンチャー企業が世界を変える機器を世に出すことも可能になってきました。この波は自動車業界にも押し寄せています。米Tesla社は電気自動車にパソコン向けの電池を活用していますし、米Android Industries社は米自動車大手3社からクルマの製造を請け負っているそうです。

 往年のベストセラー『ゾウの時間、ネズミの時間』によれば、動物の時間は体重の1/4乗に比例するとのこと。「進化は(体重の)小さいものからスタートする」ともあります。小さいものの方が、突然変異により、短期間で新しいものが生まれる可能性が高いからだそうです。企業の体重の測り方はわかりませんが、新しい何かを素早く生み出すには、身軽でいるに越したことはないようです。