韓国Samsung Electronics社の今後を見通す今回のSCR大喜利、今回の回答者はアドバンスト・リサーチ・ジャパンの石野雅彦氏である。
アドバンスト・リサーチ・ジャパン マネージング・ディレクター シニア・アナリスト
【質問1の回答】巨額投資を必要とする最先端の半導体開発・量産力が次世代製品・商品を生み出す源泉となる
Samsung社の苦境とは、日本において、スマートフォン減速による業績悪化と、同社を躍進させた李会長の病気入院を指摘するケースが多い。しかし、時価総額は7月末で依然として18.9兆円にも及び、総合電機8社(日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、パナソニック、シャープ、ソニー)合計が16.9兆円とやっと総合力で追いついてきた段階である。Samsung社の営業利益は、2014年4-6月期(第2四半期)が7.2兆ウォン(日本円で7132億円、営業利益率13.7%)と、年換算では2兆8528億円にも達し、総合電機8社の2015年度第3期予想営業利益合計の2兆円と比較しても格差がついているのが現実である。第2四半期の営業利益分析をすると、テクノロジー業界において同社が目指す片鱗が垣間見られる。
スマホを中心とするテレコム事業の営業利益は、前年同期比30%減の4兆4160億ウォンと「Galaxy S5」の販売不振で減速し、Galaxy用OLEDが主力のディスプレイ事業の営業利益も、同82%減の220億ウォンと低迷している(スマホの販売台数は、前年同期比15%減の7,500万台)。Galaxyの販売力の強さと半導体、ディスプレイなど基幹デバイスの強さが相乗効果となり、2013年第3四半期には、会社全体の営業利益で10兆1620億ウォン(約1兆円)に躍進した。その後、わずか1年も経たずにハイエンド・スマホの一時的な成熟化で垂直統合モデルに揺らぎがでている。このタイミングでの李会長の入院が報じられ、後継者問題や次世代製品開発への不透明さから、「Samsung社失速」の記事が躍る。
ところが、注視すべきは、半導体事業の営業利益と半導体投資の動きである。半導体事業の営業利益は、Galaxy S5の販売不振でも、中国スマホ用Mobile DRAMやソニーのPS4向けGDDR5(1台当たり8Gバイト搭載)の貢献で、前年同期比3%増の1兆8600億ウォンも稼いでいる。DRAMの営業利益は、同50%増の1500億ウォン(営業利益率38%)、NANDは同15%減の500億ウォン(同19%、東芝22%)、ロジックが同400億ウォン悪化の260億ウォンの損失と推測される。ソニーの2014年4-6月期の営業利益は、同97%増(343億円増)の698億円とアナリスト・コンセンサスを上回り、久しぶり好決算となった。その原動力がPS4で復活を遂げているゲーム事業であり、営業利益が同207億円増の43億円と黒字転換した。このPS4の中核部品にSamsung社のメモリが搭載されている。自社のスマホが不振でも半導体の開発・量産技術で中国スマホ企業やゲーム事業で成長しているソニー、Microsoft社などの企業を囲い込んでいる。この強さこそが携帯電話で一世を風靡したNokia社、斬新なアイディアで躍進するApple社との違いかもしれない。