韓国Samsung Electronics社の今後を見通す今回のSCR大喜利、今回の回答者はアドバンスト・リサーチ・ジャパンの石野雅彦氏である。

石野 雅彦(いしの まさひこ)
アドバンスト・リサーチ・ジャパン マネージング・ディレクター シニア・アナリスト
 山一証券経済研究所企業調査部、日本興業銀行産業調査部、三菱UFJモルガン・スタンレー証券エクイティリサーチ部を経て、アドバンスト・リサーチ・ジャパンでアナリスト業務を担う。その間一貫して、半導体、電子産業を対象にした調査・分析に従事している。

【質問1】現在のSamsung社を包む様々な苦境は、技術開発、設備投資、製品供給などのトップランナーとしての同社の役割にどのような影響を及ぼすのか?
【回答】巨額投資を必要とする最先端の半導体開発・量産力が次世代製品・商品を生み出す源泉となる

【質問2】日本の製造装置・材料メーカーには、どのような影響を及ぼす可能性があるのか?
【回答】スマホ用半導体投資、電子部品・電子材料の開発・量産を牽引する技術力があり、日本の製造装置・材料メーカーの業績を左右する影響力を引き続き堅持する

【質問3】今後のSamsung社が現在の苦境を脱するためには、どのような方策を講じる必要があるのか?
【回答】マクロ環境や市場変換に臨機応変な経営判断、既存事業の飽くなき収益性改善と次世代製品に向けた先行投資が挙げられる

【質問1の回答】巨額投資を必要とする最先端の半導体開発・量産力が次世代製品・商品を生み出す源泉となる

 Samsung社の苦境とは、日本において、スマートフォン減速による業績悪化と、同社を躍進させた李会長の病気入院を指摘するケースが多い。しかし、時価総額は7月末で依然として18.9兆円にも及び、総合電機8社(日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、パナソニック、シャープ、ソニー)合計が16.9兆円とやっと総合力で追いついてきた段階である。Samsung社の営業利益は、2014年4-6月期(第2四半期)が7.2兆ウォン(日本円で7132億円、営業利益率13.7%)と、年換算では2兆8528億円にも達し、総合電機8社の2015年度第3期予想営業利益合計の2兆円と比較しても格差がついているのが現実である。第2四半期の営業利益分析をすると、テクノロジー業界において同社が目指す片鱗が垣間見られる。

 スマホを中心とするテレコム事業の営業利益は、前年同期比30%減の4兆4160億ウォンと「Galaxy S5」の販売不振で減速し、Galaxy用OLEDが主力のディスプレイ事業の営業利益も、同82%減の220億ウォンと低迷している(スマホの販売台数は、前年同期比15%減の7,500万台)。Galaxyの販売力の強さと半導体、ディスプレイなど基幹デバイスの強さが相乗効果となり、2013年第3四半期には、会社全体の営業利益で10兆1620億ウォン(約1兆円)に躍進した。その後、わずか1年も経たずにハイエンド・スマホの一時的な成熟化で垂直統合モデルに揺らぎがでている。このタイミングでの李会長の入院が報じられ、後継者問題や次世代製品開発への不透明さから、「Samsung社失速」の記事が躍る。

 ところが、注視すべきは、半導体事業の営業利益と半導体投資の動きである。半導体事業の営業利益は、Galaxy S5の販売不振でも、中国スマホ用Mobile DRAMやソニーのPS4向けGDDR5(1台当たり8Gバイト搭載)の貢献で、前年同期比3%増の1兆8600億ウォンも稼いでいる。DRAMの営業利益は、同50%増の1500億ウォン(営業利益率38%)、NANDは同15%減の500億ウォン(同19%、東芝22%)、ロジックが同400億ウォン悪化の260億ウォンの損失と推測される。ソニーの2014年4-6月期の営業利益は、同97%増(343億円増)の698億円とアナリスト・コンセンサスを上回り、久しぶり好決算となった。その原動力がPS4で復活を遂げているゲーム事業であり、営業利益が同207億円増の43億円と黒字転換した。このPS4の中核部品にSamsung社のメモリが搭載されている。自社のスマホが不振でも半導体の開発・量産技術で中国スマホ企業やゲーム事業で成長しているソニー、Microsoft社などの企業を囲い込んでいる。この強さこそが携帯電話で一世を風靡したNokia社、斬新なアイディアで躍進するApple社との違いかもしれない。