SCR大喜利、今回のテーマは「トップランナーSamsungの行方」である。半導体メジャーの一角を占める韓国Samsung Electronics社は、複合的な苦境の中にいる。まず、全社の売上の中で大きな割合を占めるスマートフォンの事業が変調し、売上や利益が目に見えて減ってきた。スマートフォン向け半導体を見ても、Apple社の「iPhone」向け次期プロセッサーの製造が、TSMCに変わるなど、不安な要素がある。そして、こうした大口顧客向けの半導体製造にIntel社が参入するなどレッドオーシャンになる様相も見えている。そこに、ウォン高とグループトップに君臨する李健煕会長の入院が重なりました。客観的に見て、同社は試練の時を迎えているように見える。
現在の半導体業界におけるSamsung社は、技術開発と製品供給の両面で、まぎれもないトップランナーである。また、日本の製造装置メーカー、材料メーカーにとっては、重要な顧客でもある。同社の苦境には、無関心ではいられない。そこで、Samsung社の半導体部門に限定して、同社の先行きについて見通していただいた。今回の回答者は野村證券の和田木哲哉氏である。
野村證券 グローバル・リサーチ本部 エクイティ・リサーチ部 エレクトロニクス・チーム マネージング・ディレクター
【質問1の回答】最も甚大な影響が出る可能性があるのが設備投資
Samsung社は、FPDと半導体の世界で、一気にトップランナーとなった。しかし、同社の産業界におけるポジション変化は、同社が十分に対応する暇を与えないほどに急速であった。技術開発の面では、技術流出に比較的鷹揚だった日本のハイテク・メーカーの凋落が、Samsung社の開発力に大きな影響を与えている。相手の土俵に上がって戦い、競合を打ち負かすことを得意としていた同社だが、自らが新しい戦いのフィールドを作ることについてはまだまだだと言える。
半導体ではないが、Samsung社の技術開発力を世界にアピールするはずだったOLEDテレビの事業化は頓挫している。3Dメモリーでは、Samsung社が一気に開発を加速して本家東芝を抜き去って、先に量産製造技術を確立したものの、足元の開発競争では微細化を推進した東芝陣営の戦略的勝利と言える。また、iPhoneのアプリケーション・プロセッサーのファウンドリとなり、その後、スマートフォン市場で大成功を収めたSamsung社だが、Apple社からの訴訟という反作用を生んでしまった。
セカンド・ランナー戦法で成功した巨大企業から次世代を担う新製品がなかなか出てこない、という状況は我が国に先例がある。この苦境の中で、Samsung社は、今、まさに真のトップランナーになれるかどうか試されているのだといえよう。
Samsung社が苦境に陥ることは、同社の設備投資余力、購買力低下を意味するが、将来的にはもっと甚大な影響を日本の装置・材料業界に与える可能性がある。
同社ではモバイル事業部が花形舞台で、半導体事業は脇役となってしまった。半導体・FPDの巨額投資に対しては厳しい目が注がれており、「継続投資が利益を生む」「投資規模が勝負を決める」などといった単純な論理での大型投資が許容されにくくなってきた模様である。今後、業績がさらに厳しくなれば、一気に設備投資半減や7割減という話が出てきてもおかしくない。実際に2012年にそういう事態になりかけて、業界が震撼したのは記憶に新しい。