半導体の技術と業界の今と未来を、さまざまな視座にいる識者が論じる「SCR大喜利」、今回のテーマは「日本の車載半導体はどこまで強いのか」である。

 日本の半導体メーカーが絶対に負けたくない市場、車載半導体市場について有識者が論じる。今回のSCR大喜利では、日本の半導体メーカーの車載半導体事業が、世界の半導体メーカーとの競争の中で、どのように活路を求めて行ったらよいのか探る。今回の回答者は、微細加工研究所の湯之上隆氏である。

湯之上 隆(ゆのがみ たかし)
微細加工研究所 所長
湯之上隆(ゆのがみ たかし) 日立製作所やエルピーダメモリなどで半導体技術者を16年経験した後、同志社大学で半導体産業の社会科学研究に取り組む。現在は微細加工研究所の所長としてコンサルタント、講演、雑誌・新聞への寄稿を続ける。著書に『日本半導体敗戦』(光文社)、『電機・半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北−零戦・半導体・テレビ−』(文書新書)。趣味はSCUBA Diving(インストラクター)とヨガ。

【質問1】日本の半導体メーカーは、今後も車載半導体での強みを維持できるのか?
【回答】 「日本の車載半導体が強い」という前提が間違っている

【質問2】日本の半導体メーカーが、車載半導体事業を維持・成長させるために、改善すべき点はどこか?
【回答】下請け体質からの脱却とシステム設計の強化

【質問3】海外の自動車メーカーを顧客とするために、日本の半導体メーカーは何をしたらよいのか?
【回答】現地マーケテイングおよび現地経営体制の確立

【質問1の回答】「日本の車載半導体が強い」という前提が間違っている

 「企業の競争力が高い(つまり企業が強い)」というのは、どういう状態であることを言うのか。私は、次の三つの指標が高いことが、「競争力が高い」ことの条件であると考える。

1.世界市場での売上高、または世界シェア
2.利益、または利益率
3.社員数、つまり雇用者数

 上記3つのうち。一つが欠けてもダメであり、すべて揃っていなければ、「競争力が高い」とは言えない。また、上記3つの中で最も重要な条件はといえば、2番の「利益、または利益率」である。利益を上げなければ、企業として存続することができないからである。

 このような指標のもとで、日本の車載半導体メーカーを見てみよう。果たして、「競争力が高い」と言える日本企業があるだろうか。例えば、ルネサス エレクトロニクスの場合、車載半導体のシェアは約40%と世界一である。しかし、長らく赤字が続いたことから分かるように利益率は悪い。また、未だに社員の早期退職募集が続いており、社員数の減少に歯止めがかからない。したがって、ルネサスは、シェアだけは高いが、競争力は低いと言える。