日経エレクトロニクス8月4日号の表紙、いかがでしょうか? この写真を選んだのは、見た目の面白さからだけではありません。特集記事(記事)の担当記者も知らぬ間に、私の脳裏にある理由が閃きました。一言で表せばこうです。ウエアラブルの理想は裸である。

  決して奇をてらった主張ではありません。近視がひどい自分自身が、日ごろ感じていることです。毎朝メガネをかける代わりにコンタクトレンズを選ぶのは、「よく見える」という機能だけが欲しくて、メガネの重さやかけ心地は求めていないからなのです。一度ない状態に慣れてしまうと、腕時計をつけるのさえ億劫になってしまいます。

 もちろん、ユーザーが本当に裸になっては困ります。「JINS MEME」の開発者が語る(記事)ように、「既に“ウエアしている”ものに(中略)機能を付加していく」ことが重要になるはずです。その際に、普通のメガネや洋服が付加機能の分だけ大きく、重くなってしまわぬよう、小型軽量を突き詰め、時には折れ曲がっても大丈夫な部品や実装技術が必要になります。それこそが、今回の特集記事の主役であり、これからの電子部品業界が目指す方向なのでしょう。

 日経エレクトロニクスの創刊900号で「インビジブル・エレクトロニクス」と題した特集記事を掲載しました。無数の電子機器が、日常生活に自然に溶け込んで「見えなくなる(インビジブル)」という主張です。「幾つものセンサを使ってユーザーや環境の状態を把握し、それに応じた情報提供や機器の操作で、ユーザーを助ける」(同記事から)ためです。ウエアラブルな機器や部品は、その走りなのかもしれません。単に見えなくなるだけならば、本号の解説記事(記事)で取り上げた「透明マント」の方向もありますが。

 900号の記事の主張で残念なのは、「見えなくなる電子機器は価格も見えなくなる」ということです。恐らくこの予言は当たり、ウエアラブルな機器や部品でも際限ない価格下落が始まるでしょう。

 部品・実装メーカーには、それを前提にしたビジネスモデルが必須になるはずです。例えば、広告と割り切って部品を無料で提供する企業が現れるかもしれません。あるいは、格安で部品を提供する代わりに、機器メーカーが計測したデータの提供を受けて、さらなる製品開発に生かす企業も出てきそうです。でもやっぱり王道は、一足早い価格破壊で他を圧倒するシェアを握って業界に君臨する方向でしょう。なぜなら裸でも許されるのは、王様くらいでしょうから。