「そちらのモジュールに問題がないなら、すぐにでも乗り換えたい」――。2014年7月10日に、京セラが太陽電池の3本バスバー電極構造に関する特許侵害でハンファQセルズジャパンを訴えて以降、ある太陽電池メーカーにはユーザーなどから、このような問い合わせが増えているといいます。

 特許が成立したのは2年以上前の2012年3月23日です。そのときユーザーは、ここまで慌てていませんでした。当時の京セラのニュースリリースには「今後この特許に該当する電極構造を採用している企業に対して警告などを検討し、知的財産の保護に努めてまいります」とあります。

 このニュースリリースを見た太陽電池メーカー各社が、大慌てで対策を検討していたのを覚えています。中には、「特許を侵害しているのに、警告書が送られてこない。どうなるんだ」と、戦々恐々とするメーカーもありました(日経エレクトロニクス2012年10月1日号 NEレポート「太陽電池業界に衝撃、京セラの3本バスバー特許」を参照)。

 これに対して今回は、京セラが太陽電池メーカーだけではなく、「モジュールを取り扱う販売店、発電事業をおこなっている事業者に対しても、損害賠償や差止めを求める特許侵害訴訟の提訴を検討する」と、ニュースリリースではっきりと宣言したことが大きかったようです。訴えられることを恐れた販売店や発電事業者などが、京セラの特許を気にし始めています。

 訴えられたハンファQセルズジャパンは、「公知の技術であり、京セラの主張は一方的なもの」と反論しています。特許の有効性を含めて、訴訟の行方に注目です(日経エレクトロニクス2014年8月4日号 NEレポート「太陽電池の特許侵害で提訴、伝家の宝刀を抜いた京セラ」を参照)。

 私が注目している点が、もう1つあります。2年前の特許成立時に太陽電池業界が大騒ぎになったとき、各社は対策を検討しました。取材していると、「裏面の電極構造を少し変更すれば、大丈夫なようだ」という話が、国内外のメーカーに徐々に広がっていくのが分かりました。例えば、裏面の各バスバー電極を、つながった1本の線ではなく、破線にするなどです。

 果たしてこうした対策で、京セラの特許を回避できるのでしょうか。特許の請求項には「非受光面側に出力取出用の3本の裏面バスバー電極を有し」とあります。この表現は、つながった線だけを含むのか、破線は含まないのか。あるメーカーは、「泥仕合になるのを防ぐためにも、どのような構造に変更したかは明らかにしたくない」とします。このまま謎で終わるのか、訴訟の中で明らかになるのか、注目しています。