ソフトバンクモバイルは2014年6月5日に「感情を持つ」という触れ込みのパーソナルロボット「Pepper」を発表した(関連記事)。ソフトバンクモバイルでPepper開発のリーダーを務めるのが、同社 MD本部 事業推進統括部 担当部長 兼 新プロジェクト統括部 担当部長の林要氏だ。日経エレクトロニクス 2014年7月21日号の特集「Pepperのいる生活」に掲載した林氏へのインタビューのロングバージョンを掲載する。(聞き手は今井拓司、中道理、竹居智久=日経エレクトロニクス)

(写真:加藤 康)
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――ソフトバンクは2010年6月に発表した「新30年ビジョン」の中で「知的ロボットとの共存」といった言葉を打ち出していました。Pepperの開発経緯を教えてください。

 プロジェクトを発案したのは孫(代表取締役社長の孫正義氏)です。新30年ビジョンにもあるように、孫は論理という左脳に当たる部分に貢献してきたコンピューターが、感情という右脳に当たる部分にも貢献できる日が来ると考えてきた。トランジスタの高集積化やクラウドの発達などのトレンドから、そろそろ実施のタイミングだと考えてこのプロジェクトが始まりました。2012年のことです。

 ロボット自体はソフトバンクでは持っていなかったので、フランスAldebaran Robotics社の技術を活用しました。そこに、ソフトバンクのクラウド連携技術や感情認識技術などを統合していきました。  機能面の開発だけではなく、店舗のような場所に置くための耐久性や安全性の実現も苦労したところです。店舗などでは、突き飛ばされたり、センサーを隠されたりする可能性もあります。非常にインタラクティブ性が高く、よく動くロボットを、そうした厳しい環境に管理者なしで置けるようにすることを目指しました。

 不特定多数の人と接する環境で「自由に触っていいですよ」と置かれているロボットは、世界中を見渡してもほとんどありません。あっても、きわめて動作が限られていたり、反応が限定的だったりします。Aldebaran社の2足歩行型ロボット「NAO」も学術的な利用を想定しており、不特定多数の人が訪れるお店に置けるものではありませんでした。

 利用環境におけるあらゆる事態を考えて安全性や耐久性に関する要求を出し、Aldebaran社が改善したものを評価する。そうしたサイクルを何度も回すことでPepperを開発してきました。Aldebaran社がこれまで考えたことがないような要求もたくさん出しました。