「すごく面白い話を聞けた」──。こうした思いが浮かんでくる取材が連続する時期があります。「あれ?やることなすことうまく行くんじゃないか?」。こんな気になってしまう、記者としては最高に楽しい時間です。冷静に考えれば自分は人の話を聞いているだけなので、決して自分の手柄ではないのですが…。

 『日経エレクトロニクス』2014年7月21日号の特集「Pepperのいる生活」の取材は、まさにこうしたものでした。ソフトバンクモバイルが2014年6月5日に発表したパーソナルロボット「Pepper」のインパクトは何か、以前のロボットブームとは何が違うのか──。それを調べるために1カ月ほどの間、関係者に話を聞いて回ったのです。

 ソフトバンクモバイルのPepperの開発リーダー、Pepperの演出を手がけたよしもとロボット研究所、そしてロボットの著名研究者や開発者などに話を聞くことができました。家庭用ロボットの先駆けだった「AIBO」のプロジェクトに関わった方々にもお会いしました。その取材で筆者が感じた面白さが、拙記事から読者の皆様に少しでも多く伝わることを祈っています。

 印象的だったのは、ロボットの開発や研究に携わってきた方の多くがPepperの登場を歓迎していたことです。そうした意見を基にまとめたので、記事を読んで、「ちょっとPepperに肩入れし過ぎじゃないか」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

 確かに、見た目や動き方、声に対する個人の好みの問題もありますし、現時点では実用的でないという課題もあります。大半の家庭がPepper(やそれに類するロボット)を購入するまでには時間がかかるでしょう。それでも、ソフトバンクモバイルが「ロボットがいる生活」を現実味がある形で見せた意味は大きいと思います。

能動的な機械に疑問を持たない

 先日、都内を4歳の娘と歩いている時にPepperを設置している店舗を見かけました。ついついロボット掃除機のスタートボタンを押してしまってロボット掃除機に襲われ(るかのように動かれ)た1歳の時から、極度にロボットを怖がっていた娘です。Pepperにはどのように反応するのかを見てみたいと思い、娘を連れて店舗に入ってみました。

 奥手な性格が災いしてか、娘は自ら話しかけるまでには至りませんでしたが、怖がることなくPepperの存在を自然に受け入れているようでした。「Pepperくんはねえ、目が青色の時には話を聞いてくれて…」と、お店の方から聞いた説明を、後から合流した家人に一生懸命話していました。

 機械が能動的に動き、話しかけてくる──。この世代の子たちはそれを当然だと思って成長していくわけです。プログラムを書けばコンピューターが思い通りに動いてくれることに驚きを感じていた世代からすると、隔世の感があります。

 この子たちが大人になる頃に、機械と人の関係はどのように変わっているのでしょうか。まだ想像もつきませんし、その頃にはもはや境界がなくなっているのかもしれません。ロボットや人工知能の技術革新がもたらす未来に、若干の空恐ろしさを感じつつも胸を躍らせています。