現在、国内の原子力発電所はすべて停止中。電力の供給力が大幅に減少している中で、暑い夏場のピーク電力をいかに抑えるかが国を挙げての課題となっている。

 東京電力管内の1日当たりの消費電力は通常、真夏の猛暑日の午後2時前後にピークを迎え、約6000万kWに達することもある(2010年7月23日午後3時に5999万kWを記録)。

 東日本大震災後は省電力に対する取り組みもあり減少したものの、2012年、2013年ともに、8月のピーク電力は5000万kWを超えている。火力発電所等のフル稼働で発電能力を増強しても、限界が5000万kW程度といわれているから、極めて厳しい状況におかれることは間違いない。

 夏のピーク電力5000万kWのうち約30%の1500万kW程度が家庭における電力消費であり、さらにその半分の約750万kWがエアコンによって消費されているそうだ。ピーク電力を抑えるためには、家庭用エアコンに使用される電力を抑えることが有効なのである。

 では、エアコンの電力消費を抑えるにはどうすればいいのか。もちろん、エアコン本体のエネルギー効率を高めて、エアコンが消費する電力を下げる努力は続けられている。もう一つの打ち手として期待されているのが、建物の断熱技術である。

家屋の断熱性をいかに高めるか…(図:ナインシグマ・ジャパン)
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 せっかく冷たい空気で室内を冷やしても、実は建物の壁を通して外の熱気が入りこみ、冷房の効率を下げている。一説によると、冷房の効果を下げる熱の出入りの20~30%が、壁(天井と床を含む)を通しているという。そのため、冷房の効果を高めるためには、壁を通した熱の出入りをできるだけ防ぐことが重要となる。

 2013年12月に省エネ法が改正され、特に改善余地の大きな民生部門での電力消費量の削減に注目が集まっている。その目玉の一つが、まさに家屋の壁断熱であり、パフォーマンスの高い建築用の断熱材を国を挙げて求めているのである。

 建築用の断熱材は、建築物の外壁と内壁の間に詰める、あるいは外壁のさらに外側に貼ることで、壁を通して屋内外を出入りする熱をシャットアウトする材料である。熱の出入りを絶つことで、空調の効果を最大化し、余計な電力を消費することを防ぐ。断熱材の代表例は生鮮物を運ぶ箱に使われる発泡スチロールであるが、そのような材料で建物全体を覆ってしまえば熱の出入りを抑えることができるようになる。

 断熱材の断熱性能を表す指標は、一般に熱伝導率を用いる。単位は、W/m・K である。この単位の分子にあるWは単位時間当たりに移動する熱量で、分母は厚さを表すmと、温度を表すK(ケルビン)だ。分かりやすく表現すると、両側で1℃(1K)の温度差がある厚さ1mの物体を、単位面積当たり1時間に流れる熱量のことであり、この数字が低いほど断熱性が高い。建築用途では、一般に熱伝導率0.1W/m・K以下の材料を断熱材として使用する。