パソコン、ディジタル家電、スマートフォンに続く、情報システムのダウンサイジングの流れとして、「Internet of Things(IoT)」に注目が集まっている。これまで電子システムとは縁遠かった、建造物、農業、ヘルスケアなどの分野で使う器具や道具もインターネットにつないで、これまで以上に大きく、キメ細かな情報システムを構築しようするものだ。このIoT向けの半導体デバイスで大きな市場を獲得すべく、米Intel社がさまざまな戦略・施策を打ち出し始めている。同社は、ディジタル家電やスマートフォンで、ARM社のマイクロプロセッサーの拡大を許してしまった同社は、IoTでの挽回を期して必死だ。
今回のSCR大喜利では、IoTでの市場の創造・獲得に向けたIntel社の戦略や施策を深読みし、同社の狙い、戦略・施策の妥当性、IoTが半導体の生産・市場に与える影響を探ることを目的としている。1回目の回答者は、野村證券の和田木哲哉氏である。
野村證券 グローバル・リサーチ本部 エクイティ・リサーチ部 エレクトロニクス・チーム マネージング・ディレクター
【質問1の回答】先進国では、半導体市場の成長を牽引するがIntel社が期待しているような状況にはならない。新興国ではチャンスがあるかも知れない
IoTによって、半導体業界は新たなる発展の時代を迎えよう。しかし、半導体業界の時代の潮流は、最早、Intel社の業績を潤わせる方向には動いていないのである。たとえ、「Quark」が色々な企業で大量採用されたとしても、趨勢は変わらない。IoTの世界には、かつてIntel社に大きな繁栄をもたらした、戦いのルールは適用されないということである。
すなわち、重たいソースコードを、x86系プロセッサーの上でしか走らない巨大OSが読み込んで、アプリを走らせる。そしてx86互換メーカーを徹底的に叩き潰して半独占状態を形成し、巨額の利益を得るというような業界構造には2度とならないのである。ネットの世界では、軽いバイトコードのような、ソースコードと機械語の中間言語を、バーチャルマシン(VM)のような簡易OSが読み込み、アプリを走らせるようになっている。通信速度という制約要因があるIoT世界においては、データ量を極端に重たくするような方向への逆戻りはありえない。VMの性質上、MPUやMCUを1社のアーキテクチャが排他的に無理矢理独占することもしばらくは困難である。そして、そのことが、ネット環境の利便性を向上させ、IoTの可能性をより大きく広げているのである。
Intel社は、IoTの本質に触れていない。本当に分かっていないのか、肝心な所には意図的に触れていないか、どちらかであろう。IoTがもたらすものは、Intel社がセミナーで示した製品開発速度の向上や、自社製品のリモート管理による収益機会の拡大ではない。いや、そのような恩恵もあるが、ここはIntel社のようなチャンピオン企業が狙う世界ではないのである。