日経BP社が展開する技術者向けの情報サイト「日経テクノロジーオンライン」でご提供しているニュース記事の中で、最近最も本数が多い分野の1つが医療(メディカル)分野です。編集部宛てに届く記者発表会でも医療分野に関する案件は増える一方です。日経ものづくりの2014年7月号では、医療に焦点を当てた特集記事を掲載することにしました。ただし、他のメディアと同じようなことを報道しても仕方ありません。日経ものづくりならではの視点や切り口でご提供するにはどのような内容にすればよいか。担当者の吉田、近岡両デスクと喧々諤々の議論の末、決まったタイトルが今回お届けする特集1「医療×ものづくり」です。このタイトルに込めた思いは、医療技術とものづくり技術が掛け合わされると、どのようなシナジーが起きるのか、でした。

 いざ取材を始めると、やはり予想通りでした。医療のさまざまな分野に、ものづくり技術を導入すると、これまでにない新しい価値が生まれるのです。例えば、心臓手術用の心臓モデルを3Dプリンターで造ることができるようになりました。単品生産を得意とする3Dプリンターを使えば、個々の患者の実際の心臓の形状や構造をそのまま再現した心臓モデルを造ることができます。しかも、材料を工夫することで、本物そっくりの軟質モデルを造れます。実際の心臓の質感などに極めて近いモデルを利用することで、医者にとっては、極めてリアルな手術前検討(術前検討)が可能になるというわけです。これは医療現場からまさに望まれていたことであり、それをものづくり技術が可能にした例といえます。

 このようなイノベーションが生まれつつある背景としては、政府や地方自治体による産業振興の支援がここにきて活発化しており、技術を武器に市場参入を狙う企業が増えつつあることが考えられます。安定した需要と世界的にも成長が期待される医療機器市場はものづくり企業にとっては魅力的です。もっとも、その一方で、医療分野では薬事法への対応など面倒で分かりにくいことが多いのも事実です。今回の特集では、ものづくり企業が医療分野で活躍するための方策を探ります。加えて、前述の心臓モデルの例を含めて、医療分野に新しい価値をもたらした5つの事例や、医療用加工技術の最新動向についても詳しくご紹介します。

 特集2では、最近になって、ものづくりの起業に沸く米国シリコンバレーの動向を、池松記者の現地徹底取材によりお届けします。現在、シリコンバレーでは、ものづくりベンチャーの起業ブームが巻き起こっています。常識にとらわれない製品アイデアを持つ起業家たちが、世界からこの地に集まり、優秀な人材(ヒト)、盤石の技術基盤(モノ)、潤沢な資金(カネ)をてこに大きく成長しようとしています。こうしたリアルな姿をご紹介します。

 最後にご紹介したいのが、2014年5月下旬に開催された展示会「人とくるまのテクノロジー展」の詳報記事です(特集3)。この特集3では、熾烈なグローバル競争を勝ち残るために必要な最新技術が集った同展示会について、[1]低燃費、[2]小型・軽量化、[3]コスト削減、[4]自動運転、[5]新材料、[6]新接合技術、[7]新開発ツール、の7つの分野に分けて、注目すべき技術動向を詳しく掲載しました。どうぞご期待ください。